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 関西電力は、宮城と山形の両県にまたがる蔵王連峰で検討を進めていた風力発電事業を撤回した。景観や自然環境への悪影響を懸念する両県から“集中砲火”を浴び、「環境への配慮と事業性の両立が難しい」と判断した。同社が2022年7月29日に明らかにした。

「お釜」と呼ばれる蔵王国定公園のカルデラ湖。宮城県川崎町はホームページで町の魅力を発信する動画を掲載。写真はその動画の一部。関西電力が計画した「川崎ウィンドファーム事業」の風車がお釜からの景観を損なうなどとして、川崎町をはじめ、隣接する山形市や宮城・山形両県が反発した(写真:宮城県川崎町)
「お釜」と呼ばれる蔵王国定公園のカルデラ湖。宮城県川崎町はホームページで町の魅力を発信する動画を掲載。写真はその動画の一部。関西電力が計画した「川崎ウィンドファーム事業」の風車がお釜からの景観を損なうなどとして、川崎町をはじめ、隣接する山形市や宮城・山形両県が反発した(写真:宮城県川崎町)
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 中止したのは、宮城県川崎町で計画していた「川崎ウィンドファーム事業」。山形市との県境にある蔵王連峰の約1600haの区域に、ブレード(羽根)の上端の高さが最大約180m、ブレードの回転直径が最大約160mの風車(4200~6100kW級)を最大23基設置する予定だった。

 北海道の伊達市と千歳市で検討を進めていた「伊達・千歳ウィンドファーム事業」など、道内で計画していた4つの陸上風力発電事業と合わせ、22年5月30日に環境影響評価(アセスメント)法に基づく計画段階環境配慮書を経済産業相に提出。宮城県と山形県、北海道の3知事の意見を求めた。配慮書は6月1日から30日までホームページなどで公表した。

 しかし、川崎ウィンドファーム事業の計画が明らかになると、地元自治体などが反発。予定地は、一部が蔵王国定公園に指定されている他、重要野鳥生息地(IBA)や生物多様性重要地域(KBA)を含み、蔵王生物群集保護林にも隣接している。

 宮城県の村井嘉浩知事は6月6日の会見で、「景観や環境に与える影響をすごく心配している。関西の会社が関西ではなく、東北で事業を進めていくことに対しても、正直言って違和感がある」と語った。

 山形県の吉村美栄子知事も6月24日の会見で、「『えっ、どうして関西電力なの』という印象を持った。蔵王は山形県の観光地を最も代表する所だ。観光地として県も市も力を入れているので、そういう所はあまり選んでほしくない。山形市長の意見を聞いた上で、事業者に意見を言いたい」と同調した。

 山形市の佐藤孝弘市長は7月11日、環境アセス法に基づく配慮書への意見書を公表。「現在の計画は山形市民の懸念を払拭したとは到底言えず、この計画に基づく事業を進めるべきではない」と表明した。さらに、「蔵王山の眺望景観への影響が懸念される」とした市議会の全会一致の反対意見を紹介。蔵王温泉観光協会の次のような見方も載せている。

 「地球環境を守るため、資源・エネルギーは日本全体で取り組まなければならない課題だが、関西電力が関西ではなく東北で事業を進めるのには違和感がある。宮城県川崎町の山中に計画している風力発電事業は、蔵王山の自然景観を壊すことになり、蔵王のみならず山形県全体の観光客の減少につながるので反対する」

 その1週間前の7月4日、予定地のある川崎町の小山修作町長は、配慮書に対する意見書を村井知事に提出した。意見書では、水質の悪化や騒音、土砂災害、景観の阻害などへの懸念を列挙。「事業計画についての説明が極めて不十分であり、町民の理解が得られているとは到底言い難く、事業を進める環境は整っていないと判断する」との見解を示した。

 これを受け、村井知事は同日の会見で、「川崎町民の総意と受け止めた。土砂災害の危険性、蔵王連峰の景観への影響に対して大変な危機感、懸念を持っていることがよく分かった」と発言。7月6日の環境影響評価技術審査会での議論を踏まえ、環境アセス法に基づく知事意見を関電にしっかり伝えると述べた。ただし早くも、次のような意向を明かしている。

 「私も反対であることをはっきりと言いたい。それで関西電力がさらに進めるということであれば、(環境アセスで)今度は経済産業相に対して私の意見を言える機会があるので、国に対してもしっかりと物を言っていきたい」

「川崎ウィンドファーム事業」の環境影響評価手続きの流れの一部。関西電力は経済産業相に「配慮書」を提出した段階で事業を撤回した(資料:宮城県)
「川崎ウィンドファーム事業」の環境影響評価手続きの流れの一部。関西電力は経済産業相に「配慮書」を提出した段階で事業を撤回した(資料:宮城県)
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