四国地方でも風力発電事業が頓挫した。再生可能エネルギー発電施設の開発などを手掛けるJAG国際エナジー(東京・千代田)のグループの合同会社2社が2022年8月10日、それぞれ徳島県那賀町などで検討してきた2事業を中止した。自然環境への影響に加え、土砂災害の危険性を懸念する地元の自治体や住民から強い反発を受けていた。
中止したのは、徳島県の那賀町と勝浦町、上勝町で計画した「那賀・勝浦風力発電事業」と、徳島県の那賀町と海陽町、高知県の馬路村にまたがる「那賀・海部・安芸風力発電事業」の2件。「那賀・勝浦」は環境影響評価(アセスメント)の第1段階に当たる計画段階環境配慮書まで、「那賀・海部・安芸」は第2段階の方法書まで、それぞれ手続きを終えていた。
中でも、地元の反発が強かったのは「那賀・海部・安芸」だ。事業者側が公表した方法書によると、徳島県の那賀町と海陽町の最大1000m級の尾根沿いに、高さ最大約160mの風車を最大30基設置する。最大出力は9万4450kW。
地元では、事業区域が年間降雨量の多い地域に位置するため、工事中の山腹崩壊など土砂災害の発生を危惧する声が強かった。那賀町の坂口博文町長と海陽町の三浦茂貴町長は21年8月、環境アセスに基づいて、飯泉嘉門徳島県知事に方法書に対する意見書を提出。いずれも事業に反対する意向を表明した。
飯泉知事は21年10月、両町長の意見を踏まえ、環境アセスに基づいて、萩生田光一経済産業相(当時)に方法書に対する意見書を提出した。意見書では、次のような踏み込んだ表現で事業の見直しを迫っている。
「あらゆる措置を講じてもなお、重大な影響を回避または低減できない場合、または地域との合意形成が図られない場合は、本事業の取りやめも含めた計画の抜本的な見直しを行うこと」
飯泉知事が挙げる重大な影響の1つが「土地の安定性」だ。意見書によると、事業区域やその周辺は急傾斜かつ脆弱な地質が大半を占め、複数の断層が存在し、崩落も起こっている。台風の常襲地帯に位置し、平均年降水量が3000mmを超える。
「今後、地球温暖化に伴い、さらなる雨量の増加も想定されることから、尾根植生の伐開や搬出入路の新設・拡幅工事などを実施することにより、土砂崩落・土石流誘発・洪水のリスクが増大することが強く懸念される」