リニア中央新幹線の大深度地下トンネル工事でシールド機の損傷が相次いでいる。東京都の現場で掘削土に混ぜる添加材の注入設備が故障した他、愛知県ではたて坑のコンクリート製仮壁を切削する際にカッタービットが破損した。JR東海が2022年8月9日に事故の経緯と対応策を発表した。
いずれも本掘進に入る前に地上への影響や工程を検証する「調査掘進」やその準備段階だった。本掘進の開始は23年以降となる見込みだ。
シールド機が損傷した現場は、東京都品川区にあるたて坑「北品川非常口」から南北に掘り進める北品川工区と、愛知県春日井市にあるたて坑「坂下非常口」から名古屋方面に掘り進める坂下西工区。リニアの大深度地下トンネルでは、東京都と愛知県でそれぞれ初のシールド掘進現場だ。
北品川工区ではまず、深さ約83mのたて坑から泥土圧式シールド工法で南へ8.2km掘り進める。21年10月に、区間を約300mに限定した調査掘進に着手した。施工者は熊谷組・大豊建設・徳倉建設JVだ。
掘削を進めていたところ、22年2月に掘進効率が上がらない傾向が表れた。調べると、カッターヘッドとチャンバー内部に計23カ所ある添加材吐出口のうち、カッターヘッドの中心部前面にある1カ所が機能していないことが判明した。
そこで点検や後続設備を取り付ける作業に必要な空間をシールド機後方に確保するため約50m掘り進めてから停止。シールド機のチャンバー内部を点検した。その結果、添加材注入管を吐出口に固定するゴムシールが破損し、添加材が漏れていることが分かった。
JR東海は施工データの分析結果から、カッターヘッドで発生した事象を次のように推定している。
まず、掘進速度を上げた際、手動による添加材の増量が不十分だった。そのため流動性が高まらなかった掘削土が中心部の添加材吐出口に付着。カッターヘッドと掘削土の摩擦熱が増大した。
さらに、掘削土を冷却する働きもあった添加材が出にくくなったため温度が下がらず、吐出口の周辺に熱がこもった。高温となったゴムシールに添加材の注入圧力が加わった結果、破損につながった。カッターヘッドの中心部前面から添加材を注入できなくなって掘削土の流動性がさらに低下し、付着量が増えたとみている。
今後、22年12月末までをめどに添加材注入設備の補修を進める。加えてシールド機のチャンバー隔壁を改修。シールド機内部から高圧噴射ノズルをカッターヘッド前面に伸ばせるようにして、カッターヘッドに付着した土を取り除く。ノズルをカメラに差し替え、カッターヘッド前面の様子も確認する。
それでも不十分な場合は、高圧噴射ノズルやカメラを地表からシールド機の前面に向けて挿入して同様の作業を進める。23年初めごろに地質や地下水の状況を踏まえた上で、ノズルを挿すための穴を掘る予定だ。
JR東海は調査掘進を始める前から、掘進速度に合わせて添加材の注入量を自動調節する機械を用意。後続設備の取り付け作業で、添加材注入設備に自動調節機械を接続する計画を立てていた。この機械は既に搭載済みなので、JR東海は今後の掘進作業で同様のトラブルは起こらないとみている。