全1882文字
PR

 2015年9月の関東・東北豪雨の水害を巡る住民訴訟で国が一部敗訴した異例の事態は、「勝てる土俵」に持ち込めなかった国の誤算が原因だった。これまで国の主張が認められてきた「河川整備計画の合理性」とは別の観点で争われた形だ。判決では、河川区域の指定に関して河川管理の瑕疵(かし)があったと認定された。

太陽光パネルのあった箇所から越水した茨城県常総市の若宮戸地区。自然堤防の掘削箇所に国が大型土のうを設置していたが、越水を防げなかった(写真:国土交通省)
太陽光パネルのあった箇所から越水した茨城県常総市の若宮戸地区。自然堤防の掘削箇所に国が大型土のうを設置していたが、越水を防げなかった(写真:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

 国を訴えたのは、鬼怒川(きぬがわ)の氾濫で被害を受けた茨城県常総市の住民ら約30人。水害の発生は河川管理の不備が原因だとして、約3億6000万円の損害賠償を求めて水戸地裁に提訴した。

 裁判所は22年7月22日、一部の地区で国の責任を認め、原告のうち9人に計約3900万円を支払うよう命じた。水害の発生で国の管理責任が認められるのは極めて異例だ。8月4日に住民側と国の双方が控訴した。

 争点となった氾濫場所は左岸の2カ所。川沿いにあった砂質土の丘から越水した若宮戸地区と、堤防が決壊した上三坂地区だ。

越水・決壊箇所の位置図(出所:国土交通省の資料を基に日経コンストラクションが作成)
越水・決壊箇所の位置図(出所:国土交通省の資料を基に日経コンストラクションが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 若宮戸地区では、堤防の役割を果たしていた砂質土の丘を河川区域に指定しなかったことが、河川管理の瑕疵に当たるかどうかが問われた。上三坂地区については、堤防整備を他の地区よりも後回しにしたとして、鬼怒川の改修計画が格別不合理といえるかが問題となった。

 判決では、若宮戸地区で国の管理責任を認める一方で、上三坂地区については住民側の訴えを退けた。

裁判の主な争点と裁判所の判断(出所:裁判資料を基に日経コンストラクションが作成)
裁判の主な争点と裁判所の判断(出所:裁判資料を基に日経コンストラクションが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 河川の氾濫を巡って国に損害賠償を求める住民訴訟では、1984年の「大東水害訴訟最高裁判決」以来、国の責任が問われることはほとんどなかった。河川整備には財政的、あるいは技術的などさまざまな面で制約があるので、整備計画が格別不合理でない限り、河川管理者は賠償責任を負わないとされてきた。

 鬼怒川の訴訟でも、河川整備計画の代わりとなる改修計画について「格別不合理とはいえない」と判断された。この点では、従来の判断を踏襲した判決だ。

 一方で、整備計画の合理性という、国の「勝てる土俵」とは異なる観点で争われたのが若宮戸地区だ。裁判資料によると、国は若宮戸地区についても、上三坂地区と同じ土俵に持ち込もうとしているのがうかがえる。