長崎県と同県佐世保市が推進する石木ダム建設事業を巡り、反対する住民らが県と市に工事の差し止めを求めた訴訟で、最高裁は2022年9月16日、住民側の上告を退ける決定をした。これによって、住民側の敗訴が確定した。
最高裁は20年10月にも、国に事業認定の取り消しを求めた訴訟で、住民側の上告を棄却している。石木ダムを巡る法廷闘争は、いずれも住民側の敗訴で終わった。
石木ダムは、佐世保市に隣接する長崎県川棚町を流れる川棚川支流の石木川に建設する多目的ダム。川棚川流域の洪水被害の軽減と佐世保市への水道水の供給などを目的とする。国が1975年度に建設事業を採択し、2013年度に土地収用法に基づく事業認定を告示した。
今回の工事差し止め訴訟は、住民側が17年3月に提訴した。住民側は、石木ダム建設事業が次のような権利を侵害しているか、侵害する恐れがあると主張した。
(1)生命・身体の安全および生命・身体の不安におびえずに平穏に生きる権利(2)川原(こうばる)の豊かな自然とその恵みを享受しながら生活を営む権利(3)人が人として生きる権利(総体としての人間そのもの)および人間の尊厳を維持して生きる権利――など。
しかし、一審・長崎地裁佐世保支部は20年3月、「生命、身体の安全が侵害される恐れがあるとは認められず、その他の権利は、差し止め請求の根拠となり得ない」と断じ、住民側の訴えを退けた。例えば、3つ目の人が人として生きる権利などは、次のように判断した。
「人が人として生きること(総体としての人間そのもの)または人間の尊厳という概念は、それ自体が抽象的で内容や範囲も不明確である上、個々人にとってそれらが何を指すのか、そして、それをどのように評価し、何をもって侵害されたとなすのかは千差万別であるから、権利の範囲、裁判の効力の及ぶ範囲がいずれも不明確であるといわざるを得ず、民事上の差し止め請求を基礎づけるだけの具体的な法的権利とはいえない」