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 リニア中央新幹線の南アルプストンネル静岡工区における環境への影響について検討する国土交通省の有識者会議(座長:中村太士・北海道大学教授)は、高山地帯の動植物やトンネル湧水、掘削土置き場などを中心に本格的な議論を始める。2022年12月20日に開いた会合で、事務局の国交省がまとめた論点案を委員が了承した。品川―名古屋間の27年開通の見通しが立たない中、早期の本格着工に向けて議論を急ぐ。

 静岡工区では、山梨、静岡、長野の3県をまたぐ山岳トンネルの掘削が大井川に及ぼす影響について静岡県とJR東海が折り合えず、国交省が20年に有識者会議を設けた。有識者会議は21年12月に大井川や地下水の流量についての分析結果をまとめた中間報告を公表。トンネル湧水を大井川に戻すなどの対策を講じれば、大井川中下流域の流量は維持できると結論付けている。

リニア中央新幹線の南アルプストンネル静岡工区と大井川、斜坑などの位置(資料:JR東海)
リニア中央新幹線の南アルプストンネル静岡工区と大井川、斜坑などの位置(資料:JR東海)
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リニア中央新幹線の南アルプストンネル静岡工区では、国土交通省の有識者会議が2021年の中間報告で大井川流域の河川流量や地下水量をまとめた(資料:JR東海)
リニア中央新幹線の南アルプストンネル静岡工区では、国土交通省の有識者会議が2021年の中間報告で大井川流域の河川流量や地下水量をまとめた(資料:JR東海)
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 一方、大井川の上流ではトンネルの掘削によって地下水位が変わる恐れがある。静岡県や静岡市は、南アルプス国立公園を含む上流地域で高山植物や水生生物の生態系に影響が出る懸念を表明していた。

静岡県はリニア中央新幹線の南アルプストンネルの工事で高山植物や水生生物の生態系に影響が出ることを懸念している(資料:静岡県)
静岡県はリニア中央新幹線の南アルプストンネルの工事で高山植物や水生生物の生態系に影響が出ることを懸念している(資料:静岡県)
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 そこで有識者会議は22年6月以降、流域の自治体や地権者へのヒアリング、現地の視察などを実施。国交省が今後の議論の論点として「水生生物への影響」「高山植物への影響」「掘削発生土の処分やトンネル湧水の放流などによる周辺環境への影響」の3点をまとめ、12月20日の会合で提示した。各論点で扱う具体的な内容について委員から修正案が出たものの、3点を軸に議論を進めることで合意した。

リニア中央新幹線の南アルプストンネル静岡工区において、国土交通省が大井川上流での環境保全を巡る論点をまとめた。各論点の詳細は今後修正していく(資料:国土交通省)
リニア中央新幹線の南アルプストンネル静岡工区において、国土交通省が大井川上流での環境保全を巡る論点をまとめた。各論点の詳細は今後修正していく(資料:国土交通省)
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 今後は各論点について分析と評価の方法をまとめ、環境への影響の回避・低減に向けた具体策や管理目標を定める。例えば水生生物や高山植物については人力掘削や電気探査によって現地の地質や地下水を調べ、地表付近の地中水分や湧水、池の水が、それぞれ地下水位の変動や降雨からどの程度影響を受けるのか検証する。動植物とその分布地域を網羅的に調べるのは難しいため、代表的な地点を選んで影響の大きさをシミュレーションする。

 この他、会議では施工時の管理方法や、影響が生じた場合の代償措置についても明確にしていく。オブザーバーとして参加する静岡県は23年1月中に県の有識者会議の生物多様性に関する専門部会を開き、12月20日の会議の内容を精査する予定だ。