全1345文字

 大規模地震や気候変動に伴う災害リスクの増大などを受け、国土交通省は港湾の防災・減災対策を強化する。2022年12月27日に開いた交通政策審議会港湾分科会の防災部会で、堤防など海岸保全施設より海側の「堤外地」での浸水対策の強化や、老朽施設の更新促進といった対策の方向性を示した。

港湾での災害リスク増大のイメージ(出所:国土交通省)
港湾での災害リスク増大のイメージ(出所:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

 防災・減災対策の強化に向けては、首都直下地震や南海トラフ地震など大規模地震への備えが急務だ。防災部会では、発災時に海上輸送の支援拠点として機能するように、液状化対策を施した耐震強化岸壁や防潮堤を速やかに整備する必要があると指摘している。

 現在、耐震強化岸壁の整備が必要な港湾のうち約6割が未整備だ。40年には公共岸壁の約7割が供用後50年以上となるなど老朽化も進む。主要沿岸域の防潮堤についても、総延長の6割超で計画上必要な高さを満たしていない。国交省では、整備率の達成目標を掲げることを検討する。

左は供用後50年以上経過した公共岸壁の割合。右は必要な高さを確保している防潮堤の割合(出所:国土交通省)
左は供用後50年以上経過した公共岸壁の割合。右は必要な高さを確保している防潮堤の割合(出所:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

 港湾施設の老朽化が進む一方で、耐震・耐津波性能など必要な機能を満たす施設数が全国でどの程度あるのか、正確な数は把握できていない。各施設が必要に応じて性能照査を実施している。「港湾の強靱(きょうじん)化に向けて、まずは現状の脆弱性をしっかりと評価することが必要だ」と、防災部会長の小林潔司・京都大学経営管理大学院特任教授は話す。

港湾のイメージ。海岸保全施設の海側が堤外地、陸側が堤内地(出所:国土交通省)
港湾のイメージ。海岸保全施設の海側が堤外地、陸側が堤内地(出所:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

 また、気候変動による海面上昇などを受け、港湾での浸水対策が重要になっている。海岸保全施設の陸側の堤内地では、港湾管理者である行政が主体的に防潮堤のかさ上げなど浸水対策を実施してきた。

 一方で、海側の堤外地の浸水対策は、物流倉庫やフェリーなどを操業する民間事業者に任せているのが実情だ。水際に埠頭がある堤外地には、荷役作業の邪魔になる防護施設を設けにくい。岸壁のかさ上げなど、民間事業者によるハード整備は国の財政支援の対象外だ。

 国交省港湾局の神谷昌文海岸・防災課長は、「堤外地の浸水対策は、国に加えて、立地する企業とも連携しながら進めることが重要だ。協議体など関係者が連携する枠組みの創設を考えていく」と語る。