全1249文字
PR

 広島県熊野町の平谷地区で井戸枯れが相次いだ問題は、地下送水トンネルの新設工事が影響している可能性が高いことが分かった。2021年7月ごろからトンネル掘削時の湧水量が増え、同年10月以降に井戸の異変を訴える苦情が続出した。

トンネルの工事区間と、井戸枯れが相次いだ地区の位置図。青の線が既存トンネル。新設するトンネルのうち、ピンクの線が海田~矢野工区、赤の線が矢野~二河工区を示す(出所:広島県の資料に日経クロステックが加筆)
トンネルの工事区間と、井戸枯れが相次いだ地区の位置図。青の線が既存トンネル。新設するトンネルのうち、ピンクの線が海田~矢野工区、赤の線が矢野~二河工区を示す(出所:広島県の資料に日経クロステックが加筆)
[画像のクリックで拡大表示]

 送水トンネルは延長約14.3kmで、広島県の海田町と呉市を結ぶ。最小内径は約2.2m。06年に広島県営水道の送水トンネルが崩落して給水が止まった事故を踏まえ、既存トンネルの他に送水ルートを確保するのが狙いだ。

 工事は、海田~矢野と矢野~二河の2工区に分かれる。施工者は前者が前田建設工業・日本国土開発・河井建設工業JVで、後者が戸田建設・錦建設・洋伸建設JVだ。

 湧水量が増えたのは海田~矢野工区。16年12月に工事に着手し、TBM(トンネル・ボーリング・マシン)で掘り進めた。

 広島県企業局水道課の担当者は「平谷地区周辺では、送水トンネルの新設以外に大規模な工事は実施していない。トンネル工事による湧水の発生で井戸の水が枯れた可能性が高い」と話す。

 一般的に、トンネルの掘削距離が長くなるほど集水範囲が拡大し、湧水量が増える。海田~矢野工区では、21年6月時点で1時間当たり60tほどだった湧水量が、翌7月には約100tと急増した。このときの掘削距離は約3.5kmで、平谷地区までの距離は約1.1kmだった。現在も同程度の湧水量で推移している。

 県によると、1時間当たり100tほどの湧水は想定内で、排水能力を上回らない。そのため、薬液注入などで止水せずに工事を進めている。ただ、平谷地区の周辺で湧水量が急増するとは想定していなかった。掘削前にボーリング調査などを実施していたものの、延長が長い工事で地中の状況を正確に把握するのは難しいという。