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 岡山市が造成した県道の擁壁が不安定だった問題で、ミスがあった構造計算は、市の担当者が建設コンサルタント会社に口頭で指示した契約外の業務だったことが分かった。無償で行わせた業務なので同社の責任を問えず、市の費用負担で補強工事を実施した。

 市は2023年1月30日、当時の担当職員とその上司ら5人を減給などの懲戒処分にしたと発表した。土木工事の設計ミスで職員が懲戒処分を受けるのは、岡山市では初めて。

災害復旧工事が終わった現場。県道を挟んで右がもたれ式擁壁、左が重力式擁壁(写真:岡山市)
災害復旧工事が終わった現場。県道を挟んで右がもたれ式擁壁、左が重力式擁壁(写真:岡山市)
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 問題があったのは、市が19~20年度に実施した県道玉柏野々口線災害復旧事業だ。1級河川の旭川沿いに延長18.5mにわたり高さ7mまたは9mのもたれ式擁壁を構築し、県道の山側に重力式擁壁を設けた。

 その後、会計検査院の調査でもたれ式擁壁に構造計算の誤りがあると判明。安全率や設計水平震度、残留水圧などの設定を間違っていた。擁壁の安全性に問題があるため、21年3月に県道を通行止めにした。

 構造計算は、市が設計業務を委託した建設コンサルタント会社が手掛けた。しかし市の調査で、委託契約を結んだ業務には構造計算が含まれていないと判明。市は建設コンサルタント会社と、現地の測量と図面作成だけの委託契約を締結していた。その後、市の担当職員が口頭で構造計算を依頼し、無償サービスとして行わせた。

 市北区役所地域整備課の杉原慶信課長は「ブロック積み擁壁などでは構造計算が不要なケースもある。もたれ式擁壁とするかどうか設計業務の発注時には決まっていなかったので、当初契約に構造計算を含めなかった」と説明する。「本来なら構造計算が必要だと分かった時点で契約変更すべきだった」(杉原課長)。市によると、同時期に発注した別の災害復旧工事1件でも、契約外の業務を口頭で依頼していた。

 安定性不足が判明した擁壁で、市は鉄筋挿入やブロックマットの敷設といった補強工事を実施した。工期は21年12月~22年6月で、工事費は約4300万円。県道の通行止めは、安全性が確認された22年5月に解除した。

補強工事を実施した後のもたれ式擁壁。擁壁に鉄筋を挿入して背面の岩盤に固定するとともに、ブロックマットで基礎部分を根固めした(写真:岡山市)
補強工事を実施した後のもたれ式擁壁。擁壁に鉄筋を挿入して背面の岩盤に固定するとともに、ブロックマットで基礎部分を根固めした(写真:岡山市)
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 市は構造計算を誤った建設コンサルタント会社に対して、指名停止措置は講じず、補強工事の費用も請求していない。弁護士に相談した結果、契約を結んでいない業務の責任は問えないと判断したという。

 設計者に契約外の業務をさせていたことは設計ミスの発覚後、早い段階で分かっていたはずだが、市は23年1月30日まで公表していなかった。検査院の報告を受けて日経クロステックが21年12月に設計ミスの内容を市に問い合わせた際には、「設計会社への今後の対応もあり、詳細はお答えできない」と文書で回答。設計者を指名停止とせず、補強工事の費用も請求しない理由について、当時の地域整備課の課長は「設計を誤った原因を確認中」と述べ、内実を明かさなかった。

 この災害復旧工事で判明した問題はそれだけにとどまらない。施工時にもミスがあり、擁壁の安全性を損ねていた。