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 改修工事中の河川が想定外の豪雨で氾濫した場合、河川管理者は工事に瑕疵(かし)がなくても被災住民に補償すべきか――。2022年6月に北海道旭川市で発生したペーパン川の氾濫は、河川管理者の責任について難しい問題を投げかけた。

 ペーパン川を管理する北海道は「河川工事に問題はなかった」(旭川建設管理部地域調整課の山下宏治課長)と主張する。それでも、工事を実施していなければ今回の被災箇所は浸水しなかったとして、被害を受けた住民2世帯に補償金を支払うと決断。住民と協議のうえ、23年1月末までに補償手続きを終えた。金額は非公表。山下課長は「法的な責任に基づく補償ではない」と説明する。

2022年6月29日のペーパン川氾濫による浸水被害の様子。仮締め切りを越えた水が新河道内を通って農地などに広がった。写真は、農地などに広がった水が、再び河川内に流入している状況(写真:共同通信社)
2022年6月29日のペーパン川氾濫による浸水被害の様子。仮締め切りを越えた水が新河道内を通って農地などに広がった。写真は、農地などに広がった水が、再び河川内に流入している状況(写真:共同通信社)
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 この現場では、くの字に曲がった河道を直線化する事業を進めている。延長約270mの新河道の他、旧河道上の頭首工に代わる新たな頭首工を建設する。被災時には22年3月~23年3月の工期で頭首工や取水樋門(ひもん)の工事を進めていた。

 氾濫箇所は改修工事前、河川沿いの地盤が盛り上がった自然堤防を形成していた。河川工事に伴い、旧河道から新河道へつながる箇所の自然堤防を掘削。そこに大型土のうによる仮締め切りを設けていた。

ペーパン川の直線化工事の概要と氾濫時の水の流れ。河川の水は、大型土のうで造った仮締め切りを乗り越えた後、新河道にたまり、さらに農地へと広がった(出所:北海道の資料を基に日経クロステックが作成)
ペーパン川の直線化工事の概要と氾濫時の水の流れ。河川の水は、大型土のうで造った仮締め切りを乗り越えた後、新河道にたまり、さらに農地へと広がった(出所:北海道の資料を基に日経クロステックが作成)
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 積み上げた大型土のうは3段で、高さは約3m。北海道の「河川事業設計要領」に基づき、現況の流下能力を確保できるようにした。しかし22年6月29日、前日からの記録的な大雨で流下能力を超えて増水。仮締め切りから越水が起こり、土のうが崩れた。この氾濫で付近の住宅2棟が床上浸水し、農地などが被害を受けた。

 仮締め切りは、この場所にあった自然堤防よりも49cm低かった。道によると、もし工事を実施していなければ、この箇所では越水せず、既設の旧頭首工付近が氾濫していたと考えられる。

 自然堤防を削らなければ住民は被害を受けずに済んだことから、道は浸水被害が生じた原因を河川工事と認めた。一方で、仮締め切りによって現況の流下能力は確保していたので、工事に問題はなかったとしている。