東京・上野動物園で東京都が約22億円の設計・工事費をかけて整備し、2020年9月にオープンした「パンダのもり」。ここのジャイアントパンダ舎が将来のパンダ繁殖のために、2023年2月に改修を終え、さらに1歳の双子パンダが3月に親離れして新生活を始めた。リフォームの詳細と親離れ計画などについて、 “パンダ記者”の中川美帆が数カ月にわたり密着取材した内容を紹介する。(日経クロステック)
上野動物園で生まれた双子のジャイアントパンダ、雄のシャオシャオ(暁暁)と雌のレイレイ(蕾蕾)が2023年3月19日の夜に親離れした。母親のシンシン(真真)と一緒に暮らすことは二度とない。
パンダは群れをつくらず、単独で生きる動物。そのため動物園では、基本的に1頭ずつ区切ったエリアで飼育する。ただしいくつか例外がある。その1つが子育て中で、母子は一緒に暮らす。
子どもが育ってくると、母親は突然、子どもを襲うことがある。すると子どもは、動物園の狭い場所では逃げ場がなく、致命傷を負いかねない。そうなる前に計画的に親離れさせるのだ。一般的に飼育下では1歳半~2歳くらいで母子を離す。シャオシャオとレイレイは23年3月20日時点で、1歳8カ月だ。
すでにシンシンが双子を遠ざけるようになっていたため、双子の親離れ作戦は23年3月10日にスタートした。1日のうち、シンシンと双子が別々のエリアで過ごす時間を徐々に長くして、10日間ほどで完全に親離れさせる計画だ。実際に始まると、双子は十分に竹を食べて、休息できていたので、親離れが順調に進んでいると上野動物園は判断。19日夜から完全な母子「別居」にした。
ちなみに父親のリーリー(力力)と双子は、一度も一緒に暮らしたことがない。父親が一切、子育てしないのは、野生のパンダも同じだ。
双子の親離れ作戦の舞台は、上野動物園の西園。ここには東京都が約22億円をかけて整備し、20年9月にオープンした「パンダのもり」がある。敷地面積は約6800m2で、敷地内にはレッサーパンダ舎や鳥舎、トイレがあるが、大部分を占めるのはジャイアントパンダ舎だ。ジャイアントパンダ舎は、翔設計(東京・渋谷)が設計して、トーヨー建設(東京・葛飾)が施工した。リーリーとシンシンは20年8月に東園から、この豪邸に引っ越してきた。
西園パンダ舎は23年2月末まで改修された。「屋外放飼場A、B」の間に、パンダが出入りできるサイズ(70~80×70~80cmほど)の扉を設置したのだ。一見、地味に見えるが、将来のパンダの繁殖も視野に入れた大切な対応だ。
パンダは、前述したように1頭ずつ区切ったエリアで飼育する。ただし、雄と雌が交尾できる日(一般的に年1~3日)のうちのわずかな時間は、2頭を「同居」させて交尾を目指す。タイミングを誤れば、同居中に相手を激しく攻撃することもあり得る。
これまで「屋外放飼場A、B」に同時に雄と雌を入れたことはない。入れた場合、互いに匂いでコミュニケーションを取ることは可能だった。しかしパンダが移動できる扉はなく、行き来するには室内を経由する必要があった。
これでは動線が複雑になり、パンダにも負荷がかかる。「繁殖期の同居など、様々な対応をするためには、単純かつ安全な移動ルートを確保することが望ましいことから、扉を設置することとした」(上野動物園)
パンダの動きを直接、目視しながら扉を操作できるように、「屋外放飼場E」の上のキャットウオークに操作場所を配置した。ワイヤでつなげたカウンターウエートを手で動かすと、扉が上下に動く。扉が上がればパンダが通れる。