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アップルの取り組みも完全ではない

 プライバシー規制を強く訴えるアップル。もちろん、そうした姿勢を示すことは重要であり、実際に同社は行動が伴っている企業の1社だ。この方針は最近に始まったことではない。

 アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏は2010年、AllThingsDのイベントでマイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏と対談した際もプライバシーが人々の権利であることを訴えていた。ポケットの中、すなわちiPhoneに最も大事な情報を保存できるように取り組んでおり、クック氏は「そこに妥協はない」と講演で語った。

 実際、アップルは機械学習処理やAI(人工知能)アシスタントの開発に当たって、ユーザーの情報を極力デバイスの外に持ち出さないように配慮している。米グーグルや米アマゾン・ドット・コムに機能面で後れを取りながらも、プライバシーを最優先にする姿勢を維持している。

 だが、「アップルのデバイスを使っていれば安全か」という問いに対しては、同社自身を含め、「Yes」とは答えられないのが実情だ。

 フェイスブックの個人情報流用の問題では、MacやiPhoneなどのアップル製品を使っている人でも、本人もしくは友人を通じて被害に遭った。またiPhoneのユーザーはグーグル検索を使い、そのたびに広告が表示され、クック氏が指摘する「個人情報を収集する企業の利益」に貢献しているのだ。

 もはや、アップルだけが対策してもユーザーの理想通りに守れる状況になく、ユーザー情報の活用や流失という点では、同社の取り組みも「焼け石に水」の状態に陥っている。今後、シリコンバレーの企業がこの問題を是正できるか、正直なところ分からない。

 アップルがプライバシー保護の取り組みを貫き、その衆知に努めることは正しい道だと言える。しかしこれに加えて、プライバシーを守る有力な「仲間」をテクノロジー業界に作ることが必要なのだ。前述したマイクロソフトをはじめ、米IBMや米セールスフォース・ドットコムといったエンタープライズ系に強い企業が最も有力な候補となる。

 ただ筆者は、それでもまだ不十分だと感じている。

松村 太郎(まつむら たろう)
ジャーナリスト
松村 太郎(まつむら たろう) 1980年生まれ。米カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に『LinkedInスタートブック』(日経BP社)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、『ソーシャルラーニング入門』(日経BP社)など。