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米国固有の医療事情を大きく改善

 心電図計測機能が非常に重要と考える背景には、米国固有の医療事情もある。医療制度や診療の仕組みは国によって異なるが、特に米国では時間と費用が膨大にかかる。米国に暮らす筆者にとっても非常に大きなストレスとなっている。

 日本では、簡易な心電図検査であれば近くの内科医に行くだけで済む。医療費も2000円以内に収まる。

 だが、米国では簡単にはいかない。まず、かかりつけ医の診察を受け、症状を伝える。そこで心臓の専門医を紹介してもらい、改めて診察を受ける。ここで必要性が認められて初めて検査を受けられる。その後、専門医から結果を聞くわけだが、個々の診察や検査のたびに予約を取る必要があり、最低1カ月はかかる。月300ドルの保険料を払っている場合でも、毎回150ドル程度の診察料を支払わなければならない。合計4回の診察と検査で600ドルの自己負担となる。

 Apple Watchで心電図を手軽に計測できれば、最初のかかりつけ医の段階で診察に進める道が開け、症状によっては期間と費用を大幅に節減できる可能性がある。そして何より、心配になったときに心電図をすぐに計測できることは、患者本人のストレス軽減につながるだろう。このインパクトは非常に大きいと言える。

 現状は心電図の測定のみだが、今後はウエアラブルデバイスから取得した情報を医療や診療に役立てるアイデアが加速していくと考えられる。Apple Watchの心電図測定機能は大きなきっかけとなりそうだ。

医療システムとセットで検討が必要

 米国で提供が始まった心電図測定機能だが、日本を含むその他の国における提供については特に発表されていないのが現状だ。この理由としては、各国で臨床を伴う認可のプロセスを経なければならないことが考えられる。

 Apple Watch Series 4は、世界で共通の仕様となっている。Cellularモデルに限っては使用する周波数帯の関係で国や地域ごとにモデルが異なるが、それ以外のハードウエアは共通である。このため、米国以外では心電図測定機能をソフトウエアでブロックした状態で販売している。

 仮にデバイスとしての認可を得られたとしても、実際の医療現場でどう扱うかのユースケースとセットで考える必要がある。

 米国の場合、中規模以上の医療機関はオンラインサービスやアプリを通じて医師と患者のコミュニケーションを実現している。心電図のデータもPDFファイルのアップロードで医師に渡せる。裏を返せば、こうした仕組みがないと、医療現場で使いこなせない。

 もっとも、アップルは高いプライバシーを確保しつつデータを蓄積・活用できる手段を提供しているだけで、医療機関のプラットホームには直接関与していない。米国では安全にデータをやり取りする仕組みとして採用されたが、日本を含む海外でどのような展開となるのか。同社の実力が問われる。

松村 太郎(まつむら たろう)
ジャーナリスト
松村 太郎(まつむら たろう) 1980年生まれ。米カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に『LinkedInスタートブック』(日経BP社)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、『ソーシャルラーニング入門』(日経BP社)など。