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 新年のあいさつ代わりに書いた前回の「極言暴論」は多くの読者に読んでもらえた。ただ「少なくとも技術者に限っては、例外的に企業が容易に解雇できるようにしたほうがよい」との私の「暴論」が、ほとんどの読者に率直に受け入れられてしまい、「批判の嵐」を呼ばなかったのは少々残念でもあった。

 記事のタイトルは十分に刺激的なものであったと思うが、記事の本文のほうで読者に対する挑発が足りなかったようだ。「これは暴論というよりも全くの正論」とのコメントがTwitterなどで寄せられた。もちろん多くの読者がお気づきの通り、この極言暴論は「暴論のふりをした正論」を書くことを旨としている。なぜなら正論はいつの世でも「当たり前のこと」であり、当たり前のことを当たり前に書いても誰にも読んでもらえないからだ。そして読んでもらえないのなら、存在しないのに等しい。

 その意味では、前回の記事は狙いを十分に果たしたと言える。ただ、この「技術者の解雇」論はもっと批判が集まったほうがよかった。理由は単純だ。人は何かを批判しようとすると、真剣に考えるからだ。もちろんTwitterなどで横行する「単にディスりたいがためのえせ批判」じゃなく真剣な批判のほうだ。真剣な批判は真剣な議論を呼び、共通の理解を導き出す。雇用問題は炎上しやすいテーマからか建前論が多い。そこで人月商売のIT業界の多重下請け構造を生み出す根本的な原因を解消すべく、一石を投じようとしたのが前回の記事だったわけだ。

 前回の記事で詳しく解説した通り、ITと終身雇用とは最悪と言ってよいほど相性が悪い。日本のユーザー企業が米国企業のように大勢の技術者を雇用できないのは、日本の雇用制度が終身雇用を原則としているからだ。IT業界が人月商売に落ちぶれて多重下請け構造を発達させたのも、終身雇用制度のせいだ。しかも下請けの技術者は事実上、終身雇用を保障されず、不況になれば容赦なく職を追われてきた。そこで「技術者に限っては容易に解雇できるようにしたほうがよい」という結論になる。

 何度も言うが、私としてはこの結論をぜひ批判してほしいと思う。特に当事者である人月商売のIT業界の技術者や、雇用問題に正対している識者から意見をもらいたい。日本企業のIT活用と日本のIT産業を愚劣なものにしている根っこに終身雇用制度の問題がある以上、これを解決しない限り日本は半永久的にIT後進国のままだ。よろしく頼む次第である。

 さて、そろそろ「いったい木村は今回の極言暴論で何を書きたいのか」と不審に思う読者も増えてきたことだろう。身も蓋もなく言えば、前回の記事の続編だ。ただ今回は、私の中で急速に高まっている危機感についても書きたいと思う。新型コロナウイルス禍による不況で職を失う人が増えていることから、雇用維持政策の強化を求める声が急速に高まっている。当然と言えば当然なのだが、この局面で人月商売のIT業界でも雇用維持政策が必要なんて話になったら、それこそ目も当てられない。