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 やはり変革っていうのは難しい。リーダーとしての覚悟が問われるよな――。何を当たり前のことを言っているのかと笑われそうだが、最近そんな感想を抱いた出来事があった。レジ袋を製造販売していた企業が「経営環境が厳しくなった」として希望退職の募集に踏み切ったとのニュースを受け、2020年7月のレジ袋有料義務化を推進した政治家に対してTwitterなどSNS(交流サイト)でバッシングが集中したのだ。まったくもっていやはや、である。

 そりゃ、レジ袋の有料化が義務付けられれば、レジ袋をつくっていた企業の売り上げは落ち込むに決まっている。不本意な形で会社を去らねばならない人は気の毒だが、業績が悪化すれば企業がリストラに踏み切るのは当然だ。では、経営環境を悪化させたレジ袋有料義務化はどうだったかというと、これもまた、いずれやらなければならなかった政策だ。地球規模の環境問題への対応は喫緊の課題であるからだ。

 念のために断っておくが、今ごろになって「あれは前任の大臣が決めたこと」などと“ネタばらし”をするような政治家の肩を持つ気はないからな。それと「プラスチックゴミの削減や脱炭素に向けて、他にやるべきもっと大きな課題があるだろ」という批判もよく分かる。確かにプラスチック廃棄量に占めるレジ袋の割合は少ないからね。ただし、誰もが取り組める課題から始めることで、皆の環境意識を高めていってこそ、脱炭素などに向けて大きな課題に取り組めるようになると思うぞ。

 そういえば、この「極言暴論」を読んでいるIT関係者の中には「企業をリストラに追い込むような政策はけしからん」などと怒った人はいないはずだ。もしそんな人がいるのなら聞きたいが、例の「脱はんこ法」の影響で、印鑑を扱う印章業界が苦境に陥りリストラに乗り出したら、今度は脱はんこを推進したあの政治家を非難するのだろうか。そんな訳はないよね。DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)などの変革では、そうした「犠牲」は付きものだと覚悟を決めるしかない。

 なかなかITの話に行かなくて恐縮だが、もう1つ前置きを付け加えておく。「100年に一度の大変革の時代」を迎えたという自動車業界では、まもなく電気自動車(EV)が市場の中心となり、その先に自動運転車の時代が来る。EVはガソリン車に比べて部品点数が大幅に少ないので、自動車部品メーカーを中心に多くの雇用が失われるのは確実だ。だからといってEVへの転換をちゅうちょしていたら、日本の最も重要な基幹産業の未来は失われ、大量失業という最悪の結果となる。

 DXにしろ、GXにしろ、自動車業界の100年に一度の大変革にしろ、それに取り組まなければ企業も、そして日本自体も崖から転げ落ちる。とにかく経営者なり政治家なりがリーダーシップを発揮して、早めに手を打たなければ駄目である。早めに手を打てば犠牲を最小限にできる。今の職を失う人にも手厚いサポートが可能になるからだ。逆にリーダーが非難を恐れるあまり、リストラなど何らかの犠牲を伴う変革に尻込みしていると、近い将来に奈落が待っている。さて、本題。我らがIT業界やITベンダーはいかがであろうか。