
信じられないような官民の不正が相次いだので大概のことには驚かなくなっているが、厚生労働省の毎月勤労統計の不適切調査には心底驚いた。なんせ、統計だぞ。勝手に調査方法を変えてはいけないことは素人でも分かる。それなのに、恣意的に変更された不正な状態が長く放置された。その結果、雇用保険などの給付で多くの人が不利益を被った。揚げ句の果てに本問題に関する調査報告書もまがい物らしい。もうあきれ果てるしかない。
で、まがい物疑惑にまみれた調査報告書を読んでみた。外部の有識者による中立の調査報告書のはずが、職員への聞き取りの際に厚労省幹部が同席していたとかで、事実上お蔵入りとなった代物だ。ただ、システムに関する問題点も指摘しているとのことなので、あえて読んでみた。そうしたら、またまた驚いた。厚労省だけでなく他の役所や企業などでの「あるある話」が記述されていたからだ。
そこで今回の「極言暴論」では、まがい物疑惑にまみれた調査報告書を基に記事を書いてみる。本来なら、再調査によって中立性が担保された新たな報告書を待つべきだが、極言暴論で追及したいのは「厚労省の組織ぐるみによる不正なのか、単に現場の愚かな判断による不正なのか」ではなく、今回の事件から垣間見えた日本型組織と日本型IT活用の問題である。なので、調査報告書がまがい物であっても、素材としては十分に役に立つのだ。
この毎月勤労統計の不適切調査の問題は少々ややこしいため、まず簡潔に説明しておく。統計の精度に関わる問題は大きく3つ。1つ目は、東京都にある大規模事業所に対する全数調査が、なぜか2004年1月調査から抽出調査になった点。2つ目は、抽出調査にしたにもかかわらず、なぜか統計の精度を全数調査に近づける「復元処理」を行わなかった点。3つ目は、ずっと不正状態を放置していたにもかかわらず、なぜか2018年1月調査から復元処理を行って統計を上振れさせた点だ。
で、1つ目と3つ目の問題が「不正の本丸」だ。これについては、まがい物疑惑にまみれた調査報告書の内容は当てにならない。そして2つ目がシステムに関わる問題。実は、これがとても不思議な話なのだ。たとえ統計法に違反して調査方法を勝手に変えたとしても、統計処理の常識である復元処理さえきちんと実施していれば、統計の精度が保たれて惨事には至らなかったのだ。それなのにシステムが対応していなかったというから、もうビックリ仰天である。