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 「優秀なIT人材が採用できなくて困っている」というユーザー企業の話を聞くと、なぜか違和感を覚えた。彼らのぼやきはどれもほぼ同じ内容だ。「一般企業だとコンピューターサイエンスなどを学んだ優秀な学生が採れない」。だから「中途採用で優秀なIT人材を採用したいが、相手にしてもらえない」。その結果、どの企業も「困った。困った」となる。言っていることが安直なんだよね。でも違和感の正体はこれではない。

 違和感の話をする前に、なぜユーザー企業の人材採用に対する発想が安直なのかについて説明しておこう。別にたいした話ではない。そもそも優秀な理系の学生をIT要員、デジタル要員として採用できないような企業なのに、どうして現役バリバリの優秀なIT人材を中途採用できると思うのだろうか。これは安直以外の何物でもない。

 さらに「なぜ優秀なIT人材が必要なのか」と質問すると、より安直さが際立つ。大概もやっとした答えしか返ってこないのだ。「いやぁ、そりゃ、うちもデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組まなきゃいけないからだよ」。うーん、答えになっていない。で、「具体的に中途採用したIT人材に何をやってもらいたいのか」と問いただすと、「デジタルサービスのPoC(概念実証)とか、AI(人工知能)活用とか、いろいろあるよ」との答え。駄目だこりゃと言うしかないレベルである。

 断っておくが、このやり取りは特定のユーザー企業の人との会話ではなく、幾つかの企業での話を合成したものだ。だから私と会ったことのあるユーザー企業の人は、身に覚えがあるからと言って「木村め、うちの話を書いたな」とはくれぐれも思わないでほしい。優秀なIT人材が採用できないと嘆くユーザー企業は、どこもかしこもこんな安直な発想でIT人材を採用しようとしているのだと受け止めてもらいたい。

 結局のところ、優秀なIT人材に何をしてもらうのかを決めていないのだ。もちろん、IT人材にやってもらいたい仕事を明確にして中途採用に臨む企業もあるが、多くの場合、優秀なIT人材がいなければDXを推進できないとか、AIに精通したIT人材を雇えば何かやってくれるだろうとかいった安直さが透けてみえる。

 その安直さは応募してきたIT人材にも見透かされている。採用が難しいと言っても大企業なら、中途採用への応募者がゼロという事態にはならない。応募してくるIT人材はいるが、ぜひ採用したいと思えるようなキャリアのIT人材にはことごとく逃げられてしまう。応募者からすれば採用面談で上記のようないいかげんな話を聞かされたら、「こんな会社に入社したらキャリアの破滅だ」と思ってしまうだろう。「下手をすると基幹系システムのお守りをさせられかねない」といった嫌な予感を抱いても不思議はない。