
この「極言暴論」では、ITベンダーの人月商売、ご用聞き商売のアカン点、そしてユーザー企業の経営者やCIO(最高情報責任者)のダメさ加減、あるいはそんなITベンダーやIT部門にしがみついている技術者の愚かさを何度も俎上(そじょう)に載せてきた。その時々で彼ら/彼女らを「愚か者」に見立てて暴論してきたわけだ。
ただ誰を愚か者に見立てて暴論しようが、彼ら/彼女らの「引き立て役」として一貫して愚か者になってもらっている存在がある。極言暴論の熱心な読者なら、それが誰なのかうすうす分かると思う。事業部門など、いわゆる利用部門の現場の人たちである。例えば私はいつも「利用部門のわがまま」とか「くだらない要求」などと書く。で、そのわがままやくだらない要求の言いなりになっているIT部門やITベンダーの技術者の愚を描く。要するに、利用部門の人たちは主役ではないが、重要な脇役の愚か者である。
今回の極言暴論では、この重要な脇役の愚か者について正面から書いてみようと思う。ただし、「わがままで、くだらない要求を強要してくる連中」をぶった斬るような話を期待されても困るぞ。彼ら/彼女らを擁護するつもりだからだ。もし利用部門の人が極言暴論の記事を幾つか読んでいれば、「わがままとは何だ。ふざけるな」と怒っていたはずだ。確かにわがままなどと一方的にレッテルを貼られれば腹も立つだろう。今回の記事はその罪滅ぼしとして読んでほしい。
この表現もよく使ったが、わがままな客の究極はモンスターカスタマーである。普段は見えにくいが、システム開発プロジェクトが破綻して訴訟沙汰になったりすると姿を現す。例えばいずれもユーザー側が敗訴となった「旭川医科大学 vs. NTT東日本」や「野村ホールディングス、野村証券 vs. 日本IBM」の裁判の過程で、利用部門の人たちがいかにモンスターカスタマーと化したかを垣間見ることができた。もう済んだ話なので、ここで改めて書くことはしないが、当時の記事は残っているので興味がある読者はそちらを読んでくれ。
いくら擁護すると言っても、さすがにこうしたモンスターカスタマーを弁護する気はない。ただし、なぜ普通のビジネスパーソンだった人たちがモンスターになってしまうのか、なぜプロジェクトの途中で追加要件を強硬に持ち出し、手戻りを発生させてまで大混乱に陥らせるのか、その大本の理由についてだけは擁護してもよいだろうな。その理由とは「なぜ今使っているシステムと同じものをつくらないのか」という大いなる不満である。
つまり、そういうことだ。利用部門の人たちがモンスター化するのは、新たにつくろうとしているシステムが「現行通り」ではないからだ。利用部門の人たちにとって新システムの必要条件は「現行通り」、そして十分条件は「以前から求めていた機能が新たに追加されること」である。単に本人たちが気づかなかっただけか、意図的に説明されていなかったのかはともかく、プロジェクトの途中で事の重大性に気づき、怒りが爆発したというわけだ……。「ちょっと待った。木村は一体何を書いているんだ」。早速、読者の怒りの声が聞こえてきそうだな。