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 前回の「極言暴論」では現役CIO(最高情報責任者)の不思議な発言からSIerの大問題を読み解いたが、今回は元CIOの「妄想」をねたに暴論してみたい。ある大企業の元CIOが以前、こんな疑念を口にした。「ひょっとしたらSIerはわざとユーザー企業のIT部門を劣化させようとしているのではないか」。さすがに驚いた私が「おっしゃっている意味が分かりません」と言うと、その元CIOは妄想としか思えないような謀略論を語り始めた。

 「だってSIerはサービス領域をどんどん広げてきたんだぞ。システム開発では要件定義といった上流工程まで請け負うようになり、保守運用でもSIerが丸抱えするようになった。本来、システム開発の上流工程やシステム保守は、IT部門が絶対に自ら手掛けなければいけない業務だ。だからSIerはIT部門を劣化させることで、自身のもうけ口を広げようとしているとしか思えない」。

 確かにIT部門が劣化すればするほど、業務を外部に丸投げせざるを得なくなるから、SIerはその客から多額の利益を引き出せる。だが、さすがにその謀略論はナシだろう。SIerはご用聞き商売だ。もともとユーザー企業に丸投げニーズがあったからこそ、「おっしゃっていただければ何でもやります」の精神で対応してきただけのはずだ。

 私がそんな反論をすると、元CIOはさらに反論してきた。「いやいや、SIerはサービスメニューなんかを用意して『こんなこともできます』『あんなこともやります』と積極的にアピールしてくるからね。IT部門にとって、事業部門を相手にした要件定義は骨の折れる仕事だから、ついSIerに頼んでしまおうかと思ってしまう。そうしたらSIerの思うつぼ、IT部門にとっては運の尽きだ」。

 うーん、やはり妄想だ。とはいえ、ご本人に面と向かって「それは妄想です」とも言えないので、その後は話を聞き流すことにした。そもそも草食系のSIerは、肉食系の外資系ITベンダーに比べてそんなにずる賢くない。断っておくが、「ずる賢くない」とは良い意味ではなく、悪い意味でだぞ。IT部門劣化の謀略を仕掛けられるぐらいずる賢いなら、ご用聞きの人月商売からとっとと足を洗っているはずだ。

 多くのユーザー企業で進んだIT部門の劣化は、この「極言暴論」で何度も指摘してきたように、一義的にその企業の経営の責任だ。「ITはよく分からない」と公言する歴代の経営者によって、「日本の失われた20年」と称される日本経済の大スランプの時期に、IT部門は人員削減などのリストラのターゲットとなった。その結果、IT部門は自身が担うべき役割も担えないほど少人数化と素人集団化が進んでしまったのだ。

 一方、これも「極言暴論」で書いてきた内容だが、IT部門の自業自得の側面もある。IT部門は自らの役割を基幹系システムなどのお守りに限定し、経営や事業部門のニーズに積極的に応えようとしてこなかった。リストラの結果であっても「忙しくて対応できない」としか言わないのなら、経営者らから「使えない部署」と烙印(らくいん)を押されても仕方がない。その結果、ますますリストラが進むという悪循環に陥った。

 SIerはそうした「お客さまの事情」に合わせて、ご用聞きの対象を広げてきただけだろう。元CIOが言うような謀略を仕掛けられるような玉じゃない……。だが改めて考え直してみると、元CIOの妄想もそれほど的外れではないかもしれない。謀略を仕掛けようが仕掛けまいが、結果として客のIT部門の劣化に加担してきたことは確かだからだ。そして今、その報いをSIerも受けようとしている。

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