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 どうも日本企業の大半は、経営者から平社員に至るまで「変革」の意味を知らない、あるいは完璧に誤解しているようだ。だから、世間のDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームにあおられた経営者が、投資家やメディアに向かって「我が社のDX」を熱く語っても、実際のデジタル変革とやらは現場に丸投げといった奇妙な現象が起こる。その結果、職場のブラック化という間抜けな事態に立ち至る可能性もある。

 「ブラック」と言えば、ある企業のIT部長から随分前に聞いた話を思い出した。その企業の経営者は創業者で、現場に厳しい指示を出すことで社員から恐れられている。とにかく指示の中身がとんでもないのだ。例えば不況で業績が悪化した場合、それは許してもらえても、「では、来期はV字回復を果たすので、過去最高益の5割増を目指せ」といった恐ろしい指示を飛ばすのだという。つまり「そんなの絶対無理」なことを要求するのだ。

 読者の皆さんは、この企業をブラック企業だと思うだろうか。この「極言暴論」の読者の多くは、人月商売のIT業界にいて、毎日のように上司や客からのむちゃくちゃな要求に悩まされているだろうから、こんな話を聞くと脊髄反射的に「とんでもないブラック企業だ」と人ごとながら怒り出してしまうかもしれない。ところが、この話を聞いたのは随分前だが、いまだにその企業がブラック企業だという風評を聞いたことがない。

 しかも、確かにとんでもない要求だが、ある観点から見ると経営者の要求は完璧に正しい。「そんなの絶対無理」な要求であるがゆえに正しいのである。その意味がお分かりだろうか。ちなみにそのIT部長によれば「そんなの絶対無理」な要求の多くは達成できてしまうそうだ。もちろん、現場社員が不眠不休でただ働きのようなことをしたから達成できたわけではない。

 種明かしをすると、実に単純な話だ。社長の数値目標はたとえ社員が不眠不休でただ働きしようと、絶対に達成できない。つまり、これまでの業務のやり方の延長線上でいくら頑張ったところで土台無理な話なのだ。だったら、業務のやり方を抜本的に変えるしかない。これでお分かりだろう。経営者の狙いもそこにあるようで、自らが最先頭に立って業務の抜本的見直しに取り組むそうだ。

 この企業ではこうした業務の抜本的見直しを「変革」とは呼んでいなかったと記憶しているが、これこそ変革である。最近では、この企業の経営者も「我が社のDX」を熱く語っているそうだ。「デジタル化」という面ではうまく行っているかどうかは分からないが、DXの「魂」である「ビジネス構造の変革」という面では抜かりはなかろう。さて、記事の冒頭で「どうも日本企業の大半は、変革の意味を知らない」と書いたが、その理由はもはや明らかであろう。