
経営者がIT部門に「我が社も早急にデータ分析をできるようにせよ」と命じた。で、IT部長が「何にお使いですか」と聞くと「逆に聞くが、何ができるのか」。返答に困ったIT部長は「まずは何をしたいかおっしゃっていただかないと」と言うと「だから、何ができるのか次第だ」と経営者。無限ループの始まり……。
これは、あるCIO(最高情報責任者)から聞いた「日本企業のデータ活用あるある話」だ。この話をTwitterで紹介したらばか受け。いわゆる「バズった」状態になった。「経営者が無能」「IT部長が使えない」「どっちもどっち」といったコメントも多数寄せられた。中には「同じような会話を最近聞いた」といった声もあった。私はこれ以外にも、日本企業のデータ活用の状況についていろいろと聞いているが、それはもうひどいものである。
データ活用を巡る無限ループは、何も「経営者とIT部長の問答」に限った話ではない。世間のDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームに勝手にあおられた経営者が「我が社もDXだ」と騒ぎ出し、しかも現場に丸投げするものだから、困った生産現場などがデータ活用を始めようとしたりする。で、「何に使うのか」「何ができるのか」の問答が始まる。らちが明かないので、とりあえずIoT(インターネット・オブ・シングズ)などでデータを取得してみたものの、ありきたりの「分析結果」を得てそれっきりという話もよく聞く。
それにしても、日本企業のデータ活用はお寒い限りだ。もう悲惨と言ってよい。他の先進国や新興国の企業は今、いかに大量のデータ(ビッグデータ)を取得し、いかに経営や現場のビジネスに活用するかに血道を上げている。人呼んで「データは新時代の石油」(日本流に言えば「データは新時代の産業のコメ」)だ。DXという言葉を使うかどうかは別として、世界の企業にとってDXの眼目は、データを基に状況を素早く理解してビジネスのありようを変えていくことにあると言っても過言ではない。
何せ最近は、ユーザー企業かITベンダーかを問わず、米国企業などの幹部から話を聞くと、AI(人工知能)を含めてデータ活用に関わる話で持ちきりだ。「DXの一環として業務プロセスの変革を進める」とか「老朽化した基幹系システムを刷新する」などとCEO(最高経営責任者)やCIOが叫んでいる企業はほとんどないんじゃないかな。勘違いするといけないので、あらかじめ言っておくが、業務プロセスの変革や基幹系システムの刷新はどうでもよいという話ではないぞ。米国企業などはそんな作業をとうの昔に済ませているのだ。
一方、日本企業はこの「極言暴論」で何度も何度も書いている通り、業務プロセス改革も基幹系システム刷新もまともにできていない。だから「2025年の崖だ」と騒ぎ、DXの主要な課題に据えざるを得ない。常識的に言って、ここがちゃんとできていないと、経営などでのデータ活用は夢のまた夢だ。しかも経営者はそんな自覚もなく、DXブームやビッグデータブームにあおられて「何でもいいからデータ分析せよ」などと言い出す始末。当たり前すぎる話だが、「IT後進国」である日本は「データ活用後進国」でもあるわけだ。