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 「パッケージソフトウエアやSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)に自社の業務を合わせるのは、そんなに大変なことであろうか」と最近思う。例えば基幹系システム刷新の際にERP(統合基幹業務システム)を導入するとなると、これまでの業務のやり方を変えなければならないとして大騒ぎになる。いわゆる「ERP導入に伴う業務改革」だが、それって大騒ぎするほど困難なプロジェクトなのか。

 こう書くと、「何を言ってんの。大変だからプロジェクトが頓挫したり、ERPがアドオンだらけになったりするんでしょ」と読者に笑われそうだ。実は私も「日本企業は独自のやり方にこだわるから業務改革は大変で、たとえERPを導入しても業務改革は頓挫する」という常識をこれまで疑ったことはなかった。だが最近、自分が愚かだったと気がついた。業務改革というと大層だが、よく考えると、たかがパッケージソフトウエアに業務を合わせるだけのことである。

 では、何が大変なのか。2つの要素に分解したほうがよいだろう。1つは、パッケージソフトウエアやSaaSに業務を合わせること、つまり業務改革そのものだ。もう1つは、言わずと知れた社内の抵抗勢力の存在。「それじゃ業務は回らない。現行通りにしろ」とねじ込んでくる利用部門を説き伏せるのが大変というわけだ。特に日本企業の多くは変化を好まない保守的な組織文化なので大きな困難を伴う。私もそう思っていたし、読者も何となくそんな風に思っているはずだ。

 ところが、である。世にあまたある「ERP導入に伴う業務改革」の失敗プロジェクトを思い出してもらいたい。「アドオンをほとんどつくることなくERPを素で入れた結果、業務が回らなくなり大損害を被った」なんて話は聞いたことがない。そうではなくて、現行通りのシステムにしようとしたり、利用部門の要求を過剰なほど受け入れようとしたりした結果、開発が難航してプロジェクトが大炎上するパターンがほとんどである。

 要するに、ERP導入に伴う業務改革を回避した結果、システム刷新プロジェクトがとんでもなく困難になるというパターンが大半なのだ。このパターンでは開発費が当初予算の2倍、3倍に膨らみ、納期もべた遅れになる。そして経営者やCIO(最高情報責任者)が「うちの業務のやり方にソフトウエアを合わせてしまった」とか「基幹系刷新に当たって、利用部門の要求を可能な限り反映してシステムを再構築してしまった」と天を仰ぐ結末を迎える。

 もし、こうした企業が基幹系システム刷新の際、自社の業務をERPに合わせようとしていたらどうなっていただろうか。自社の業務のやり方にERPを合わせるやり方よりも困難を伴っただろうか。恐らくそんなことはあるまい。開発予算もSIerに無駄金を支払う必要がないから、当初予算の2倍、3倍に膨らんだプロジェクトに比べると5分の1程度のコストに収まったはずである。