
「IT業界は変化の激しい産業」というのは全くの嘘っぱちだ。この「極言暴論」を5年の長きにわたり書き続けてきて、つくづくそう思う。もちろん日本のIT業界に限定した話だ。世界のIT産業や日本のユーザー企業のビジネスが激変しているのに、日本のIT業界はずっと人月商売に明け暮れてきた。「亀の歩み」という言葉があるから、日本のIT業界を亀に例えたくなる。だが少なくとも亀は歩むから、亀に失礼である。
この5年もの間、人月商売の頭目であるSIerや下請けITベンダーのビジネスがほとんど何も変わらず、「問題あり」のままだったから極言暴論を書き続けることになったわけだ。ただ、そんな話をすると必ず、訳知り顔の人から「何をいまさら。日本のIT業界はもっと前から何も変わっていない。これからも同じだ」との反応が返ってくるので本当に困る。カエルに例えると今度はカエルに失礼だが、この類いの人はまさに「井の中の蛙(かわず)」だ。
確かに日本のIT業界は、はるか昔からずっと人月商売に明け暮れ、世界に類を見ない多重下請け構造を維持し続けてきた。残念ながら流行語にはならなかったが、日本固有のあまりに特異な“生態系”のため、私は「SIガラパゴス」と命名したりした。とにかくSIガラパゴスは変わらない。SIerの幹部は常に「人月商売を続けていてはダメだ」と言いつつ、せっせと御用聞きに勤しんでいた。
あまり昔の事を書くのはなんだが、私がたまにネタとして使うエピソードを書いておく。私は1992年から2002年までの10年間、IT業界の担当を離れ、規制緩和で激変する通信業界や勃興するEC(電子商取引)業界などの動向を取材していた。いやぁ、楽しかった。電話で問い合わせると経営者が直接答えてくれるほど小さな会社だったNTTドコモや楽天が、あっという間に巨大企業に成長するなど、イノベーションと時代の変化を体感できた。
で、2002年にIT業界を再び取材するようになって呆然。久しぶりに大手ITベンダーの記者会見に行った時、ひな壇の経営トップが「我々はそろそろ人月商売から脱却しないといけない」と話すのを聞いて、腰が抜けそうになった。1992年にIT業界の担当を離れる直前の取材テーマが「人月商売からの脱却」だったからだ。2002年までの10年間、そして2002年からの16年間、合わせて四半世紀、人月商売は不滅だったわけだ。