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 日本企業の社長が必要なIT投資を認めないのは、社長がITを分からないからだ――。ユーザー企業のIT部門、ITベンダーを問わず、そう思い込んでいる人は多い。だが、それは全くの見当違いか、都市伝説の類いにすぎない。渾身の提案を経営会議でリジェクトされた人がそう言いたい気持ちを分からないわけではないが、社長がITを分からないからIT投資にゴーサインを出さないというのはあり得ない。

 少し考えれば、すぐに分かることだ。どんなにITを分からない社長がいる企業でも、基幹系システムを筆頭に様々なシステムが稼働している。では、それらのシステムはいつ導入されたのか。歴代社長の中でたまたまITを分かる社長がいた時に、一気に導入されたものなのか。まさか、そんなことはあるまい。歴代社長がITを分からない、ITに理解が無いにもかかわらず、粛々とシステムが導入されて今に至ったはずである。

 しかも、今の社長は「とてもITを分かる」レベルではないにしろ、少なくとも以前の社長に比べたら、少しはITに理解がある。なんせ今はデジタルの世だ。人工知能(AI)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)などの動向に無関心な社長はいないから、誰もがとりあえずデジタル(=IT)の話に聞く耳は持っている。にもかかわらず、必要なIT投資を認めようとしない。そこが問題なのだ。

 例えば、長年の改修でプログラムコードがスパゲティ化して“田舎の温泉宿”状態の基幹系システム。利用部門の非効率な業務プロセスをシステムで固定化してしまっているデメリットもあり、IT部門は「もはや限界」と判断してシステム刷新を起案する。ところが投資額の大きさに社長はたまげる。で、「今まで問題なく動いてきたのだから、今のままでも問題ないだろう」という訳が分からない理由で却下したりする。

 では、その基幹系システムを構築した時はどうだったかというと、現社長以上に当時の社長はITを分からなかったし、今と同様にIT部門の地位は低かったが、基幹系システムをはじめとするIT投資はほとんど何でもOKだった。ある大手金融機関の社長から直接聞いたが、昔は50億円以上のIT投資案件でも、ITを分かる役員がほとんどいないために経営会議をほぼ素通しだったそうだ。