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 私はこの「極言暴論」で何度も技術者に「転職のススメ」を説いてきた。当たり前である。特に人月商売のIT業界、中でも下請けITベンダーなんかにぼーっと勤め続けたら、むちゃなシステム開発プロジェクトで酷使されたうえに、不況になって案件が減れば「プログラマーは35歳が限界」などという訳の分からない理屈でお払い箱となりかねない。

 少し前の極言暴論で明確にした通り、「ITと終身雇用は最悪と言ってよいほど相性が悪い」。個々の企業では、システム開発時に必要な技術者の数と運用時に必要な数が恐ろしく違うから、ユーザー企業のIT部門は必要最小限の技術者しか抱えられない。必然的に、必要に応じて技術者を「提供」する人月商売のIT業界が栄え、大勢の技術者が要らなくなる不況期に備えて「雇用の調整弁」としての多重下請け構造が異常発達した。

 そんなアホな状況も、米国やインドといったIT先進国のように技術者がプロジェクト単位で転職するようになれば、たちどころに根絶される。ユーザー企業はプロジェクト完遂後の技術者の処遇に頭を悩ますことなく、プロジェクトの規模に合わせて技術者を雇用できる。つまりシステムの内製化が可能になるため、SIerを親玉とする人月商売のIT業界に依存する必要はなくなる。その結果、多重下請け構造という非近代的な仕組みは雲散霧消する。

 これは技術者にとって最高にハッピーな状態ではないかと思う。ユーザー企業がSIerに人月単価120万円で発注しているとすると、その企業の社員になった技術者は少なくとも同額をもらっても罰は当たらないだろう。つまり、年収にして1400万円以上だ。優秀なプログラマーなら2000万円、優秀なプロジェクトマネジャーになれば3000万円ぐらいは出してくれるはずだ。

 しかも、世のため人のため日本のためにもなる。日本では特にAI(人工知能)などの先端分野や情報セキュリティー分野で優秀な技術者の不足が懸念されているが、それは技術者が終身雇用されていることを前提にした話だ。案件が終了し、その技術者がもう必要でなくなったにもかかわらず、その企業に飼い殺しになっていれば、そりゃ優秀な技術者は社会全体で不足するだろう。技術者の転職が当たり前になれば、優秀な技術者をシェアできるわけだから、不足感は随分緩和されるはずだ。

 まあ、こんな理屈で散々「転職せよ」と技術者をあおってきたわけだが、1つ重要な指摘が抜け落ちていたことに気がついた。極めて単純な話だが、技術者のキャリアにとって極めて重大なことだ。それは「同じ会社に長くいたら、とびきり優秀な技術者であってもどんどん劣化し、使えない技術者に成り果てる」というものだ。そのまま中高年になったら、中間管理職にでもなるしかなくなり、技術者としてのキャリアはジ・エンドになってしまうぞ。