「人売り」「ピンハネ」の実態
先にも書いた通り、3次請け、7次請けといった多重下請けのポジションは固定されているわけではない。第3層のITベンダーは彼らのネットワークの中で、需給に応じて技術者を融通し合っているわけだ。こうした形で技術者を集める以上、SES契約(場合によっては請負契約)の要件を満たしているか疑念が生じる。仮に技術者を発注者側が直接、指揮命令している実態があれば、即座に多重派遣となる。
そうした違法行為が無くても、第3層のITベンダーは技術者を出すだけで売り上げが立つし、他のITベンダーから技術者を「調達」すれば、受注料金の単価より発注料金の単価を安く設定することで労せずしてもうけることができる。こうした実態があるからこそ、特に第3層のITベンダーに所属する技術者らから「人売り業」や「ピンハネ業」といった怒りの声が聞こえてくるのだ。
心優しき読者の中には「いくら何でも『人売り』とは言い過ぎでは」と思う人がいるかもしれない。だが、それは大きな間違いだ。なんせ当のITベンダーの経営者自身が人売りを公言する。私もそんなITベンダーの経営者から「数人の技術者が無稼働になり困っていたのだが、ようやく単価60万円で売れた」などと言うのを何度聞いたことか。記者に向かって平気で話すわけだから、人売り業が身に染み付いていると言ってよい。
「ピンハネ」については異議を唱える人はいないと思う。ユーザー企業が元請けのSIerに単価120万円で発注したにもかかわらず、多重下請けを経ていくうちに単価が下がり、末端では半値以下の50万円になったりする。プロジェクトマネジメントなどを担うSIerや第2層のITベンダーが余計に取るのはそれなりに正当性があるが、何のリスクも負わない第3層のITベンダーがサヤを抜くのはピンハネ以外の何物でもない。
こうした第3層のITベンダーに所属する技術者はスキルを高める機会に恵まれないばかりか、需給の調整弁として不景気の時には切り捨てられる憂き目に遭う。この辺りはこの極言暴論でも何度も書いてきた話だが、案件が減れば単価はどんどん下がり、倒産するITベンダーも出てくる。もちろん、あれこれと理由を付けてベテラン技術者を退職に追い込むブラック企業も第3層には多数存在する。