IT業界の変革はもはや必要なし
人月商売のIT業界がこのような3層構造に固定されているため、冒頭に書いたように第1層のSIerは業界のブラックな実態から自らを切り離すことができる。SIerが直接やり取りをするのは原則として第2層の協力会社に限定され、第3層のITベンダー間でどのようなやり取りがあって必要な人数の技術者が集められたのかを知る必要が無いからだ。
もちろん、ユーザー企業がコンプライアンスに神経質な場合など、システム開発プロジェクトに参画するITベンダーについてしっかりと把握する必要があるケースもある。だが、IT業界にはそのための対策として古典的な「手口」がある。例えば2次請け、3次請けのITベンダーの社員で開発チームのメンバーを固めてしまえばよい。5次請けの技術者は4次請けのITベンダーに出向し、さらに3次請けに出向する。これで問題解決というわけだ。
そんなことをしなくても、第3層のITベンダーの技術者がプロジェクトに入る際には、使う機会はめったにないが、第2層のITベンダーの社名が入った名刺を持たされる。だから、SIerのプロジェクトマネジャーや客のIT部門の担当者からは、集められてきた技術者の素性は見えない。「いろんなITベンダーから来ているんだろうな」とは当然思うが、見て見ぬふりを決め込める。
このようにSIerはSIビジネスの根幹を第3層に強く依存しているにもかかわらず、そのブラックな実態からは無縁でいられるわけだ。そのためか、たまに「俺たちが下請けの技術者の仕事を生み出している」などと思い上がったSIerのプロジェクトマネジャーに出会うが、それはとんでもない勘違いだ。正しくは、ホワイト企業だと思っている「俺たち」が、IT業界のブラックな実態を生み出しているのである。
実は少し前まで、SIerこそが責任を持ってIT業界を変えていってほしいと思っていたが、もはやどうでもよい。IT業界の3層構造(多重下請け構造)は好不況により多少の変動はあるものの、多くのユーザー企業のIT部門から安定的に案件が出てくる前提で成り立っていた仕組みである。今デジタルの時代となり、ユーザー企業のIT投資の主体は事業部門に急速に移りつつある。SIerが客を失い、人月商売のIT業界が瓦解する日は近い。