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 最近「ありゃ、何だ」と思うことがある。何の話かと言うと、今どんな企業でも、どんな行政機関でも採用したい、あるいは育てたいと大騒ぎしている「DX人材」のことだ。もちろん、デジタルトランスフォーメーション(DX)を担う人材がどんな組織にも必要とされていることには疑問の余地がない。ただ、そのDX人材って何なのよ。話を聞けば聞くほど、もう笑うしかなくなるぞ。

 DX人材をあえてカタカナ英語に書き換えてみようか。「デジタルトランスフォーマー」だ。映画のタイトルのようでかっこいいが、カタカナ英語にするとDX人材に必要とされる「要件」が明確になる。つまり「デジタルを活用して何か(ビジネスや組織、文化など)を変える変革者」というわけだ。そりゃ、どんな企業でも、どんな行政機関でもそんなDX人材が必要なのはよく分かる。だが、そんな人材がどこにいる。どうやって育てるのか。

 容易に想像がつくはずだが、DX人材、あるいは将来DX人材になり得るような人は圧倒的に少ない。しかも、ここは日本だ。変化を極端に嫌うサラリーマン集団の組織の中で、変革を志して実際に成し遂げるようなスーパーマン的人材は、全くいないとまでは言わないが、限りなく少ないだろう。にもかかわらず、どんな企業も、どんな行政機関もそんなデジタルトランスフォーマーを探し求める。これだけでも既に非現実的だ。

 仮にそんなデジタルトランスフォーマーがいて、転職を考えていたとしよう。だが、これまで変革なんてやったことも考えたこともないトラディショナルな日本の企業や行政機関がどうやってその人を見つけ、どうやって採用するのだろうか。仮に育てるにしても、これまで何も変えようとしなかった組織の中で、どうやって変革者を生み出すのだろうか。そんな訳なので、DX人材の獲得や育成はほぼ絶望的なのである。

 なのに、何でまあ猫もしゃくしも「DX人材!DX人材!」と騒ぐのだろう。そんなデジタルトランスフォーマーは採用も育成もできないのだから、大騒ぎしても仕方がないだろう……。私はそんなふうに考えていた。だが、少し真面目に考え過ぎていたようだ。要は、猫もしゃくしもが求めるDX人材とは、そんな「本物の変革者」ではないのだ。もっといいかげんな話である。せいぜい「DXの推進に少しは役に立つ人材」といった程度にすぎない。

 読者には「もっと早く気づけよ」と笑われそうだが、恥ずかしながら今ごろになってようやく気づいた。そのきっかけは、下請けITベンダーの求人にまで「DX人材」がうたわれているのを見つけたことだ。下請けITベンダーは人月商売、下請け稼業から脱却するために、DX人材とやらを求めているわけではない。ユーザー企業のDXを支援する技術者をDX人材と呼んでいるだけである。何のことはない。これまで通りSIer経由で客先に赴くコーダーや保守要員をDX人材と言い換えているにすぎないのだ。