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DXの本気度を疑う、「一億総ゆでガエル」状態の日本

 最近、経営者や政治家が「デジタルだ! DXだ!」と騒ぐようになったとはいえ、どれだけ本気なのかはかなり怪しい。実際にある調査によると、DXに関する経営者の姿勢で「重要性を理解しているものの、現場任せ」が4割近くに達しているのだ。これは2020年の調査だが、2019年の4割強と比べてほとんど変わっていない。DXを「我が事」と考えない経営者の割合は高止まりの状態にあるわけだ。

 うーん、何と言うかねぇ。日本企業の経営者には「DXを急がないと大変なことになる」との切迫感がないんだよね。「他社のDX事例が取り上げられていたから、うちも何かやらないと」とか「株主や投資家の手前、うちもDX推進組織をつくろう」とかいったとほほなDXもどきが実に多い。デジタル庁を創設するとはいえ、いまだに「ITやデジタルでは票にならない」と言う政治家は何人もいる。そんなのんきな連中が多いのなら、「デジタル敗戦だ」とあおって危機感を高めたくなるのも分からなくはない。

 要は誰も彼も「ゆでガエル」状態なのだ。ゆでガエルとは、環境変化により危機的事態が迫っているのに抜本的な対策を取ろうとしない企業や人などを指す。徐々に温度が上昇している水の中にいるカエルに例えた言葉だ。外に飛び出さない限り、やがてカエルはゆで上がってしまう。でも水温の上昇は少しずつだから、迫り来る危機に素早く反応できない。「今の状況、やばくない? DXをやらないとまずいかもね。でも当分は大丈夫だよね」などと言っているうちに、ゆで上がってしまうわけだ。

 ちなみに、ゆでガエルの典型は我らが人月商売のITベンダーだ。客のご用を聞いてシステムを開発し、その保守運用を手掛ける労働集約型の産業に明日はない。デジタル革命の時代に居場所はない。そんなことは重々分かっていて、経営者も「人月商売からの脱却を目指す」などと言ってみたりはする。だが、「客の需要もあるし、まだ大丈夫だろう」と漫然と人月商売を続けているITベンダーはあまりにも多い。そろそろ「熱っ!」というレベルの危機的な状況のはずなのだがねぇ。

 太平洋戦争での敗北のように国家滅亡の淵まで行けば、そりゃ何もかも変わる。黒船来航のように「日本が外国にじゅうりんされる」との恐怖が国中で高まれば、明治維新のようなことも起こり得る。そこまで極端な話ではないが、1980年代の一連の日米ハイテク摩擦では、スーパーコンピューターの対米輸出などで米国政府から露骨な圧力を受けて、日本は何度も苦杯をなめた。だが、それが製造業としての日本のITベンダーを強くした。

 だが今は、たとえデジタル敗戦と言っても、先ほど書いたように戦ってもいないのだから「敵」はいない。ある意味、敵がいないのは結構なことだが、世界の誰からもライバル視されていないということでもある。少なくともIT/デジタル分野では、米国企業はもちろん韓国企業や中国企業からもライバルと見なされていない。特にGAFAをはじめとする米国企業に対しては、戦わずして日本市場を明け渡している始末だ。

 そしてIT/デジタル分野で戦ってもいないから緊張感がない。落ちぶれたとはいえ、日本市場はまだまだ巨大だから、今までのやり方で商売をしていればそこそこ食っていける。多少はデジタルに対応しないとさすがにまずいが、抜本的にビジネス構造を変革するようなDXに本気で取り組む必要はない。かくして、多くの日本企業や日本全体がデジタル革命にますます取り残されていく。まさに「一億総ゆでガエル」状態だ。