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 DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しようとする企業、そして最近ではデジタル庁をはじめとする行政機関までもが、デジタル人材の獲得に血道を上げている。だが、そうした企業や行政機関は、必要な人材について大きな勘違いがあると思うぞ。デジタル人材を何人雇ったところでDXなど不可能だからな。その大きな勘違い、あるいは意図的な勘違いについて今回は暴論しよう。

 その前にまず、デジタル人材といういいかげんな人材区分について少しはっきりさせたほうがよい。デジタル人材という言葉の曖昧さが、勘違いを助長させている面もあるからね。「デジタル人材って、要するにIT人材の言い換えでしょ」で基本的には正しい。ただし、何となくIT人材と呼ばれている人の中には、さすがにデジタル人材と言えないような集団も交じっている。

 例えば今や大企業でおなじみの素人集団と化したIT部門だ。システム開発や保守運用を単にITベンダーに丸投げしているだけの存在であっても、一応IT人材と呼ばれる。だが本来ならIT人材と言えないので、デジタル人材ではない。ご本人たちの責任ではない場合が多いので大変心苦しいが、IT窓口担当者とでも呼ぶしかない。念のために言っておくと、自らプログラムを書かなくてもシステムエンジニアリング業務などを行っているのであれば、当然IT人材でありデジタル人材だ。

 そんな訳なので「デジタル人材 = IT人材 - IT窓口担当者」という理解で、基本的にはよいだろう。ただし、デジタル人材という言葉にはIT人材よりアグレッシブなニュアンスがある。例えばソフトウエアをばりばりと書くプログラマーをはじめ、AI(人工知能)技術者やデータサイエンティストといった類いの人材だ。要するにIT部門の「奥の院」に閉じ籠もっているのではなく、ビジネスの現場で活躍している人がデジタル人材のイメージだ。

 で、本題はこれからだ。こうしたデジタル人材、特に優秀な人材を何人そろえれば企業や行政機関はDXを推進できるようになるのだろうか。企業などに取材すると、必ず「デジタル人材が圧倒的に足りない」といった話を聞かされる。ただねぇ、仮にデジタル人材を100人単位、1000人単位でそろえたところで、DXなんてできっこないよ。企業や行政機関のDXに最も必要な人材が決定的に欠けているからだ。

 どんな人材が欠けているかというと、DXのうちの「X」を担うトランスフォーメーション人材、つまり変革人材だ。もちろん厳密に言えば、DXのDとXを機械的に分離して、それぞれを担う人材を割り当てるのは間違いなのだが、それを言い出したらDXのためにデジタル人材を集めること自体が大間違いだ。それにこの「極言暴論」で何度も主張している通り、DXの本質はデジタルのほうではなく変革のほうにある。だから変革プロジェクトを担える人材がどうしても必要だが、デジタル人材の中にそんな人はまずいない。