
最近、あるCIO(最高情報責任者)の話を聞いていて、最初は「この人、何を言っているんだろう」と思うことがあった。そのCIOは「ビジネス戦略あってのIT戦略というのが普通だが、そんな考えでは駄目だ。IT戦略はビジネス戦略から独立して考えなければならない」と話したからだ。はっきり言って「えっ!」と思ったね。ビジネス戦略とは別にIT戦略を考えると、下手をすれば「IT屋の妄想」にすぎないものになるからな。
だが、すぐに「なるほど」と納得した。確かにその通りだ。特に最近はITの進歩はすさまじいから、自社のビジネス戦略を前提にIT戦略を悠長に考えているようでは、使い物にならない時代遅れのIT戦略「もどき」にしかならない。まずは最新の技術トレンドを把握して、そこから自社のビジネスに資するIT戦略を立案していく必要がある。つまり、ITを巡る環境変化から発想してみろ、というわけだ。そんなことを言うと、一昔前なら「これだからビジネスを知らないIT屋は困る」と笑われそうだが、今はこれが正しい。
何せデジタル革命の嵐が吹き荒れている。すさまじいスピードで進化するITがビジネスに大きな影響を与える時代だ。いつ何時、新たに登場したITが自社のビジネスにとって深刻な脅威になるかも分からない。実際、デジタルネーティブのスタートアップがいきなり巨大化し、デジタルディスラプター(デジタルによる破壊者)となって小売りや出版・放送、家電など既存の産業を侵食する。これらは今や、毎度おなじみとなった光景だ。
そんな訳なので、企業のIT戦略は「まずビジネス戦略ありき」ではなく、別の角度から考えてみなければならないわけだ。このCIOはそこまでは言わなかったが、本来ならこれからのビジネス戦略は、進化するITを前提に組み立てなければならない。「もはやITは経営やビジネスの道具ではなく武器だ」とはよく言われることだが、この話に乗っかって少し物騒な例え話をすれば、次のようになる。
「画期的な武器が開発されれば戦い方が変わる。軍事上のパワーバランスが一気に覆るケースもあるから、武器を単なる戦争の道具と考えてはならない。最新の武器の存在を前提に戦略を組み立てる必要がある。いくら精緻な戦略を立てても、機関銃やロケット砲の存在を知らずして火縄銃で戦っては勝てるわけがないからだ」。いかがだろうか。そう言えば「戦略」は本来、軍事用語だったな。このことは、ビジネスにおいても全く同じである。
そう考えると、これからの時代、CIOあるいはCDO(最高デジタル責任者)がビジネス戦略づくりの中核を担うべきかもしれないな。ただ大半の日本企業はCIOらにそうした権限を与えてはいないだろうし、CIOら自身もそんな能力を持ち合わせていないはずだ。そこで次善の策にはなるが、ITに一知半解の事業部門や経営企画がつくるビジネス戦略に従属しないで、技術トレンドを踏まえたIT戦略を考える必要がある。もっとも、その場合でも日本企業のCIOらの能力レベルからすると、難易度はマックスに近いが。