
人月商売のITベンダーの経営者でこの事実を把握している人はきっと舌なめずりしているだろう。そして「あの木村が訳の分からない予測をわめいているが、全くピント外れだ」と嘲っているに違いない。何かと言うと、日本企業に残存する老朽化したシステムのことだ。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査では、日本の大企業の8割以上で老朽システムが残存しているという。
「極言暴論」の熱心な読者なら、もうお分かりであろう。老朽システムはメインフレームとCOBOLアプリから成るものもあれば、もはや存在しないパッケージソフトウエアやフレームワークを使って古いバージョンのJavaで書かれたオープン系システムもあるはずだ。いずれにしろ、大企業のIT部門が「老朽システム」として認知している以上、いずれ何とかしなければいけない代物に違いない。
だから、SIerをはじめとする人月商売のITベンダーにとって、老朽システムは木に実る完熟果物のようなものだ。いずれ自分たちの手元に落ちてきて、人月商売を潤すシステム刷新案件などとして、おいしくいただける。そんな完熟果実である老朽システムが大企業の8割以上に残存するという事実は、ITベンダーの人月商売のうたげはまだまだ続くと楽観視させる。「2020年代にSIerなどの人月商売は死滅する」とする私の予測は、彼らからするとナンセンスの極みだろう。
ただし、ITベンダーの楽観論が愚かな点は、老朽システムを抱える企業がこれまで通りのやり方でシステム刷新を丸投げすると思っていることだ。仮にそうなれば私の予想は外れ、人月商売もIT業界の多重下請け構造も維持される。そしてユーザー企業は非効率なシステムを非効率なやり方で維持するため、競争力を落とし続ける羽目になる。だが、少し前の極言暴論の記事末尾で書いた通り、多くの日本企業はそこまで愚かではない。
この記事では「基幹系システムの刷新を2020年以降に先送りしていても、経営者が代わったタイミングなどで抜本的刷新に踏み切るケースもある。その際、SIerは蚊帳の外に置かれる可能性が高い」としか書かなかったので、「単なる木村の希望的観測にすぎない」と笑う読者もいた。今回の記事では日本企業の経営者のマインドが大きく変わる近未来を論証して、希望的観測ではないと示そう。そして人月商売のITベンダーの楽観論をあざ笑うことにしよう。