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「私も辞めた」「同期や周りも辞めた」

 もちろんSIerは転職を選ぶ若手を引き留めようとするが、決め手が無い。「君にはアジャイル開発に対応できる優秀なプログラマーに成長してもらうから」などと言ったところで、「何を今さら」である。真に受けてSIerにとどまったとしたら、約束は間違いなく空手形に終わる。今、人月商売の現場は忙しい。現場のマネジャーが優秀な若手を手放すわけがない。「しばらく我慢してくれ」と言われ、うやむやにされてしまうだろう。

 そう言えば前述のJISAも、今期の事業活動テーマの筆頭に「人材革新」を挙げる。「若い世代の流動化が加速している」との危機感からだが、次のような方針を掲げる。「『こうしましょう』と言える技術者、プロの技術者としての誇りとたゆまぬ技術向上心を持つデジタルエンジニアの育成」。ツッコミどころがあり過ぎるが、今回は控えておく。

 一言だけ指摘しておくと、若手が辞めないように「デジタルエンジニア」の育成に力を入れようというのは前提がおかしい。「今後、従来の人月商売が成り立たなくなるから、新規事業やビジネスモデルの変革に取り組もう。そのために優秀なデジタルエンジニアを育成しなければならない」というのが、正しい思考回路のはずだ。

 SIer各社は危機感を持ちつつも当面はご用聞きの人月商売で食っていけると思っているから、ビジネスモデルの転換に真剣に取り組んでこなかった。しかし「将来の飯の種」となる若手技術者に逃げられたら困る。そんな思惑から優秀なデジタルエンジニアの育成を叫んだところで、SIerを去っていこうとする若手の心には響かないだろう。

 そもそもSIerにそんな人材を育てられるのかという疑問もある。顧客に寄り添うご用聞き文化の中で、「こうしましょう」と言える技術者や、たゆまぬ技術向上心を持つデジタルエンジニアを育成できるかは微妙だ。たとえ育成できたとしても、デジタル案件での高い提案力と高度なスキルを持つ技術者が働くに値する仕事が、SIerの中にあるかどうかも疑問だ。

 実は先週、そんな問題意識からTwitterに投稿した。「大手SIerから若手技術者がどんどん辞めている。危機感を持った各社の経営は『ご用聞きではなく、高い技術と提案力を持った技術者を育てる』と言い出している。でもね。SIerにはそんな優秀な技術者を育てる環境が無い。奇跡的に育ったとしても能力を生かす仕事が無い。で、人材流出は加速する一方だな」。

 反応はすさまじかった。「その通り」との反応はもちろん、「私もSIerを辞めた」「同期や周りがどんどん辞めていく」「SIerから転職してきた人が多数」「優秀な人が多く辞めて、そのしわ寄せが来ている」「新卒の大半がどこかのタイミングで辞めるつもり」など、まさに若い世代の流動化がそこにあるかのような引用リツイートが相次いだ。

 どうやら既にSIerは、人材の草刈り場と化しているようだ。刈るのはGAFAやユーザー企業、そしてITベンチャーだから、SIerは刈られっ放しになるしかない。さて、どうするのか。私の提言はいつもと同じだ。ビジネスモデルや企業文化の変革に取り組み、ご用聞きの人月商売から脱却せよ。どうしようがSIerの勝手だが「できない」「やらない」では、人材面からもSIerの未来は消える。