技術者の経歴詐称問題、業界以外の人には理解不能
人月商売のIT業界に巣くう経歴詐称問題は、昭和の時代から延々と続く下請けITベンダーによる不正行為の1つだ。詐欺に等しいわけだから、もっと厳しく犯罪的行為と言ったほうがよいかもしれない。最近はコンプライアンス重視の風潮から少なくなっただろうと勝手に思い込んでいたが、人月商売の面々は懲りていないようだ。虚偽の経歴を背負わされた技術者の嘆きは今もIT業界に満ちている。
この虚偽の業務経歴書づくりは考えれば考えるほど、そら恐ろしくなる。何せ素人同然の技術者とは言えないような人に「大手金融機関で○○システムの××の構築経験あり」といった経歴を平気で与える。日経クロステックのコラムで私が仕切っている「テクノ大喜利、ITの陣」でも執筆者が様々な経歴詐称の実例を報告しているから、関心がある人は参照してほしい。
人月商売のIT業界と縁もゆかりもない人に、経歴詐称の話をすると大概は驚く。そりゃそうだ。ただ、この経歴詐称の横行には驚くポイントが複数あるのだ。まず「人月商売のIT業界では技術者の経歴詐称が横行している」と聞いて、IT業界を知らない人は「ハイテク産業だと思っていたのにびっくり!」となる。そして次の疑問が新たに湧いてくる。「でも普通、すぐにばれるでしょう?」。
この疑問は当然だ。虚偽の業務経歴書を持たされた素人同然の人が、一人前の技術者のように振る舞っても簡単にばれる。誰もがそう思うし、実際にほとんどの場合、すぐにばれる。で、「はい、当然ばれますよ」と答えると、人月商売のIT業界と縁もゆかりもない人は再び驚く。「えっ?だったら不正行為を働いたとして大問題になりませんか。場合によっては訴訟沙汰になっちゃうでしょ!」。
非業界人にとっては、この驚きも至って当然。例えば他の業界では品質に虚偽があれば、それこそ大問題になる。実際に最近、製造業で横行した製品の品質偽装などでは、単に取引の当事者だけの問題に収まらず、世間から強く指弾された。SES(システム・エンジニアリング・サービス)契約によって技術者を客先に送り込む下請けITベンダーにとっては、技術者の能力こそがいわば「商品の品質」だ。だから本来なら、技術者の経歴詐称はばれたら大変な事態になるはずなのだ。
ところが、そうはならないのが人月商売のまか不思議な点だ。「いや、大概はそれほど問題にはなりませんよ。中には見て見ぬふりをされることもありますし」と答えると、人月商売のIT業界と縁もゆかりもない人は本当に腰を抜かす。理解不能に陥るのだ。まさにこの点が記事の冒頭で書いた、経歴詐称問題の背景にある構造問題の核心である。