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 いやぁ、本当に気の毒なほど取り残されているな。企業のIT部門の現状を聞くたびに、つくづくそう思う。経営者がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むと宣言して、新たにデジタル推進組織が発足し、事業部門でもデジタル人材の育成が始まっている。それなのにIT部門といえば「君たちは既存システムのお守りをしていればいいよ」と蚊帳の外に置かれてしまった。要するに、IT部門は「ITの主流」の地位を剝奪(はくだつ)され辺境の地に追いやられてしまったわけだ。

 そういえば以前も何かの記事で紹介したが、ある企業の役員にデジタル推進組織を新たにつくった理由を聞いてみたことがある。デジタル推進組織はDXを推進するための中核組織という位置付けというので、この役員に「IT部門があるのに、なぜ新たな組織をつくったのですか」と聞いてみたのだ。もちろん「IT部門が使い物にならない」という回答を想定しているから、我ながら相当に底意地の悪い質問だ。

 すると、この役員は当初「そりゃあ君、攻めのITと守りのITとは役割が違うからな」と建前を話していた。さすがに「うちのIT部門では駄目だ」などという愚かな発言はしない。ただ、こんな「本心」を聞かせてくれた。「技術者を中途採用する際、応募者に『基幹系システムのお守りをさせられるかも』と疑念を持たれたら逃げられてしまう。だから、IT部門とは別の組織を受け皿にしないといけない」。

 もう、なるほどである。この役員にとっても、そして中途採用に応募してくる技術者にとっても、IT部門は基幹系システムのお守りという「つまらない仕事」だけをやっている部署でしかない。しかも、この企業のIT部門もそうなのだが、そのつまらない仕事ですらITベンダーの常駐技術者に丸投げしていたりする。そんな劣化して素人集団と化しているIT部門とは別に、ばりばりの技術者が安心して働ける魅力的な職場をデジタル推進組織の形で提供しようというわけだ。

 このあたりの事情は、デジタル推進組織を新設した他の企業でもそんなに変わらないはずだ。かくして多くの企業で、守りのITを担う組織(=IT部門)と攻めのITを担う組織(=デジタル推進組織)の分離が進む。ただし、攻めのITを担うデジタル推進組織を用意したところで、必要な数の技術者を中途採用できる訳もない。なので、事業部門などでもデジタル人材の育成が始まる。はやり始めたローコード/ノーコード開発ツールなどを使いこなせるようにして、各部門の現場でもアプリを開発していこうという算段だ。

 こうした動きに対して、当のIT部門の人たちはどう思っているのだろうか。中には「DXなんて訳の分からないことに動員されずに済んでラッキー」と思っている部員もいるとは思うが、「基幹系など企業にとって重要なシステムを担ってきたのに、新設の組織より軽く見られるのは納得できない」と不満を抱える人は多いと聞く。さらにこんな不安もある。「デジタル推進組織や事業部門でつくったアプリはやがて管理できなくなる。その際、IT部門はそのお守りを押し付けられる」。残念ながら、その不安はほぼ間違いなく的中するだろう。