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 はっきり言って、大企業かベンチャー企業かを問わず、デジタルを使って新たなビジネスを興そうとしている人たちにとって、今、これ以上ないくらいの千載一遇のチャンスが訪れている。ひょっとしたらインターネットが世界で爆発的に普及し、EC(電子商取引)などの試みが始まった1990年代半ばに匹敵するか、あるいはそれ以上の機会が生まれているかもしれない。

 今そうした状況を生起させているものは何かと言うと、取りも直さずパンデミック(世界的大流行)を引き起こした新型コロナウイルスだ。全世界で多くの人が亡くなり、多くの企業や個人事業者が苦境に陥っている現状を捉えて、不用意に「千載一遇のチャンス」などとはしゃぐのは不謹慎であることは承知している。だが冷徹に状況を見渡すと、今が新たなデジタルサービスの創出にとって前代未聞の機会であることは容易に納得できるはずだ。

 だってそうだろう。1990年代半ばのインターネットの爆発的普及は新たなビジネスの環境を提供しただけで、ネット上でのビジネスや買い物などを「強制」しなかった。一方、新型コロナ禍は全世界の人々に対して、「非接触」を基本とするよう行動変容を迫った。ネットも含めたデジタル環境を使って働いたり生活したりすることを「強制」しているわけだ。

 しかも、顧客との接触を基本とする多くの既存ビジネスで、その存立基盤が揺らいでいる。苦境にある企業は当然、デジタル活用などによって生き残り策を必死に模索しなければならないが、その試みの中から新たなビジネスを創出できるかもしれない。新型コロナ禍の影響をそれほど受けなかった企業にとっては、本当に不謹慎だが「チャンス到来」だ。存立基盤が揺らいでいる他社のビジネスを一気に覆せる、新たなビジネスを興せるかもしれないからだ。

 こう書くと、まるで「火事場泥棒」のように捉える読者がいるかもしれない。新型コロナ禍で商売が成り立たなくなって困っている企業があるのに、その企業をさらに追い込むようなデジタルサービスを立ち上げよと言っているわけだから、そう思う人がいてもおかしくない。だが、これこそが資本主義の「おきて」だ。既存ビジネスが滅んだとしても、新たなビジネスが社会をより豊かで便利なものにできれば、それでよいのだ。

 実際、多くの人が「その通り!」と思っているはずである。何の話かと言うと、例の「ハンコ」だ。リモートワークを阻害する元凶のように語られる印鑑だが、それを製作販売する印章店はこれまで商取引などを支える重要な役割を担ってきた。日本の文化の1つとしてどれほど素晴らしいかも分かっているつもりだ。だが、電子契約サービスなどがハンコを駆逐するのはビジネスとして当然だ。その結果、社会がより便利になれば素晴らしいことである。