
少し前にこんな話を聞いた。日本の大企業が導入したERP(統合基幹業務システム)の多くは平日の昼間、つまり企業の営業時間にはほとんど「遊んでいる」そうだ。基幹系システムなのだから営業時間中は業務処理でフル稼働していると何となく思っていたが、実際には暇で仕方がないらしい。
断っておくが、営業時間内に事務処理作業で基幹系システムを使っていないというわけではない。さすがに普段の事務処理作業はExcelを使うといったお笑いねたでもない。別の意味でのお笑いねたなのだ。要は、事務処理作業で基幹系システムは使っているが、ERPはあまり使っていないという話だ。
既に「なるほど、そういうことか」とふに落ちた読者も多いかと思う。言われてみれば当たり前の話だ。営業時間に事務処理を担っているのは、ERP本体ではなくアドオンなのだ。毎朝のバッチ処理でアドオンがERPのデータベースから必要なデータを取り込む。営業時間中は事務担当者がアドオンを使って仕事を進め、業務終了後にバッチ処理でデータをERPのデータベースに戻す。
これでは営業時間中にERPの出番が少なくなるわけだ。この「極言暴論」で何度も問題にしているように、日本企業、特に大企業はERPを可能な限りそのまま使うという発想が無い。逆にERPを自社の業務に合わせようとする。だから大量のアドオンをSIerに作らせる。その結果、ERPが稼働しても実際に働くのはアドオンばかりとなる。
「ERPを自社の業務に合わせようとする」と書いたが、これは厳密には誤りだ。ERPを導入しようするユーザー企業はそのような認識かもしれないが、ERP自体をユーザー企業の業務に合わせたわけではない。ユーザー企業とERPの間にアドオンが入り込んだにすぎないのだ。
ユーザー企業が「ERPを自社の業務に合わせた」と誤解しているのは、実はSIerにとっては好都合だ。そうでなくても高いERPのライセンス料金に自分たちの人月料金を“アドオン”する策を、この理屈でユーザー企業に納得してもらえるからだ。「特注でERPをわざわざカスタマイズしてもらったのだから、料金が高過ぎてもやむを得ない」というわけだ。
しかし、これは愚か過ぎる勘違いだ。ERPをわざわざカスタマイズしてもらえばもらうほど、つまりSIerをもうけさせればさせるほど、ERPは高いライセンス料金に見合う仕事をしなくなる。ERPを使った基幹系システムが運用フェーズに入れば、利用部門の追加要求に対応しなければならない。遊んでいるERPはそのままで、アドオンのカスタマイズや追加開発でSIerに保守料金を払う。まさにお笑いねたである。