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 実は少々驚いている。菅義偉首相が行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)にここまで入れ込むとは想定していなかったからだ。菅内閣の看板政策として掲げた「デジタル庁」の創設では2020年中に基本方針を定め、2021年1月に召集する通常国会に必要な関連法案を提出する方針というから、なかなかのスピード感だ。

 このデジタル庁のねた元は、安倍晋三内閣時代の2020年7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針)」に記された「内閣官房に民間専門家と関係府省庁を含む新たな司令塔機能を構築」だろうから、スケジュール通りと言えばスケジュール通りだ。だが、新首相がデジタル庁を自らの看板政策に据えたのは、ちょっとしたサプライズだった。

 何せ日本の首相がデジタル、つまりITを主要政策として自らの言葉で語るのは初めてだからな。これまで歴代首相がITを語ることはあったが、政策としての優先順位は低く、官僚の作文を棒読みするのが関の山だった。全くの企画倒れに終わった例のe-Japan戦略を公表した当時の首相は「IT革命」を「イット革命」と言ったぐらいだからな。その話が伝わってきたとき、暗たんたる気持ちになったのをよく覚えている。

 隔世の感と言ってよい。まさに時代は変わったのである。20年前のe-Japan戦略ではIT革命と称していたデジタル革命が、いよいよ誰の目にも明らかなくらい本格化してきた。そして、デジタル革命はかつての産業革命に匹敵する大変革であり、日本がその波に乗れなければ「IT後進国」に成り下がる瀬戸際に立っているのも明らかだ。世界レベルで経済や社会のデジタル化が進んでいるだけに、デジタルの崖から落ちたままでは、単にIT面で後れを取ることだけでは済まされないのも明白だ。

 そんなわけなので、冒頭で「驚いた」とは書いたが、日本の首相がデジタルを政策の中心に据えるのは当然と言えば当然である。むしろ遅すぎたぐらいだ。私が驚いてしまったのは、「首相がITに関心を持つはずがない」との思い込みがあったからだろう。いずれにせよ、デジタル庁を突破口にして、地方自治体も含めた行政のDX、経済や社会全体のDXを推進しなければ、この国は本当にやばい。

 だが、菅内閣が行政のDXに成功する可能性は極めて低い。ざっくり言って10%もないだろう。こう書くと「おっ、極言暴論らしく、いきなりケチをつける気だな」と早合点する読者も多いと思うが、そうではない。これが絶望的に難しいプロジェクトであるという事実が広く認知されないと、成功確率は10%どころかゼロになってしまう。つまり絶対に成功しない。そこのところを思いっきり警告したいのである。