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 ちょっとした感動を覚えながら話を聞いていた。2020年10月1日に起こった東京証券取引所のシステム障害とそれに伴う株式取引停止に関する会見で、記者の質問に対する東証の経営陣の受け答えがあまりに「まとも」だったからだ。まともとは「当然そうあるべき対応」という意味だ。「システム関連トラブルの記者会見で、ようやくまともな話が聞ける時代になったか」と少し感動してしまったのだ。

 実際に東証の出席者、特に横山隆介CIO(最高情報責任者)の受け答えは、本当にまともだった。「極言暴論」の記事なので事細かに褒めそやすことは控えるが、記者の質問に正対しているし、システムのことをきちんと理解したうえで話しているし、責任を回避したり誰かに押し付けたりするようなこともなかった。当然、記者会見も荒れなかった。

 残念ながら記者会見の会場には行けなかったが、日経電子版のサイトで動画中継していたので、会見のもようをつぶさに見ることができた。この動画中継により多くの人たちも直接、東証の説明を聞けたため、TwitterなどSNS上では「絶賛の嵐」となった。経営陣がシステムをきちんと理解して話していることや、システムの現場に責任を押し付けていない点などが、多くの技術者の琴線に触れたようだ。

 ただ、私がちょっとした感動を覚えた理由はそれだけではない。忘れもしない15年前、2005年11月1日のシステム障害に伴う東証のお粗末極まりない記者会見と比べたからだ。私から言わせれば、15年前の記者会見はシステム障害そのものよりも「事件」だった。システム障害の当日、まだ原因も究明されていないのに、東証の出席者が「富士通に対する損害賠償請求も辞さない」と言い放ったのである。

 その日、私は富士通と競合するITベンダーの広報担当者と昼食を取りながら話をしていた。お昼のニュースだったと思うが、ちょうど食堂のテレビに記者会見のもようが映し出されていて、その「暴言」を聞くことになった。私は「何ておバカなのか」と驚いて、箸が止まってしまった。そのとき、ITベンダーの広報担当者が「あんなふうに言われたら、富士通さんもたまらないだろう」と吐き捨てるように言ったのもよく覚えている。

 翻って今回のシステム障害では、当日の記者会見で宮原幸一郎社長が「市場運営全体の責任は我々にあり、富士通への損害賠償の請求は現在考えていない」と明言している。まさにまともな発言である。というか「普通」の発言である。にもかわらず、ちょっと感動してしまったのは、客とITベンダーとの関係、あるいは経営や事業部門とシステムの現場との関係が、ようやくまともになったとの思いがあったからだ。