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 新型コロナウイルス禍のすさまじい強制力により、多くの企業が導入したテレワーク。「日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の取っ掛かりとなる」などと高く評価する声は多いが、正直言って私は全く評価していなかった。ちゃんちゃらおかしい、とも思っていた。「3密」の回避や、働き方改革ならぬ「働く場所改革」になるのだろうが、「何でDXにつながんねん」とバカにしていた。

 だって、そうだろう。DXは「デジタルを活用したビジネス構造の変革」だ。一方、新型コロナの感染拡大防止のために緊急避難的に導入したテレワークは、基本的に業務のやり方などを変えることなく、働く場所を社員らの自宅などに移しただけだ。もちろん、できなくなった業務もあるだろうが、それは枝葉末節。非対面と言っても、ZoomやTeamsなどの画面を通してしっかり対面して会議や打ち合わせをする。業務は変わらず働く場所だけが変わった。だから働く場所改革なのだ。

 でもまあ、DXの取っ掛かりとしての効用は全くのゼロではない。これまで「ITはよう分からん」と豪語していたITオンチの経営者も原則テレワークとなり、嫌々ながらTeamsなどを使い始めたら「結構使えるぞ」と。すっかりIT活用に自信を持ち「我が社もDXが必要だ」と口走り始める。そんなマンガのような話も聞くから、テレワークもそれなりに意味があるのかもしれない。

 だが、テレワークは「変革なきデジタル活用」にすぎない。だから、それだけではデジタル活用による変革を意味するDXにはつながらない。私はそう理解していた。極端な言い方をすれば、例のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用をもってDXと称する愚かさと同じだ。日本企業のRPA利用の多くは、業務プロセスや基幹系システムを変えることなく事務作業をロボットに任せる。これもまた「IT活用による効率化」であっても、決してDXとは言えない。

 少し前に、ある企業の「DXの取り組み」なるものを聞いて、かなりあきれてしまった。その企業は、テレワークの全社導入、RPAの全社活用、そして幾つかのデジタルサービスのPoC(概念実証)の3点セットをもって「我が社のDX」としていた。デジタルサービスのPoCだけはDXの取っ掛かりと言えないこともないが、それでも取っ掛かりにすぎない。この3点セットで「我が社のDX」というのは、かなり厚かましい。

 ところが、である。実は今、テレワークに対する見方をかなり修正しつつある。新型コロナ禍によってテレワークを導入したことで、日本企業のあしき組織文化、サラリーマンたちのあしき習慣が一掃される可能性が見えてきたからだ。もちろん、やはり直接にはDX推進の取っ掛かりになるわけではないが、日本企業にある「DXを阻害する要因」がこの強制テレワークにより随分取り払われる。そんな期待が持てるようになったのだ。