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 いやぁ大変なことになった。何の話かと言うと、日本におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)バブルの急膨張だ。多くの企業の経営者、そして行政の長がDXを語るようになったのは基本的には結構なことだが、急ごしらえのイミテーションDXがものすごい勢いで増えているなら問題である。そろそろ経営者らが語るDXの真贋(しんがん)を検証しないとまずいことになりそうだ。

 まず前提としてはっきりさせておかなければならないのは、今あちこちで語られているDXはまさに「語られている」だけだという点だ。実際に存在するかどうかも分からない超先進企業を除けば、経営者らが語るDXの中身は大したことはない。せいぜいデジタル推進組織をつくったとか、「こんなPoC(概念実証)をやった。あんなPoCをやった」と言っている程度である。要は、まだ中身がスカスカなのだ。

 特に行政のDXについては、やっと語られ始めた段階だ。菅義偉首相が就任直前の2020年9月の自民党総裁選挙で「デジタル庁創設」などをぶち上げたことから、行政のDXに火が付いた。まさに全てはこれからの段階。だが、これだけ誰も彼もがDXを語り始めると、それだけで日本全体のDXが進んでいるかのように錯覚してしまうのが怖いところだ。今はまだ「DX」という言葉のバブルが膨らんでいるだけであることを見失うとまずい。

 もちろん「DXのはじめの一歩」は経営者らがデジタル変革を我が事として考えるようになることだから、DXが多少バブリーであったとしても決して悪い話ではない。何せ新型コロナウイルス感染症の拡大前には、DXに関心を持たない経営者はごろごろいたし、「我が社もDXに取り組んでいる」と言いつつ、実態は現場にDX(もどき)を丸投げし、何をやっているのかを実はよく知らない経営者も大勢いたからな。

 それが新型コロナ禍を機に一気に変わった。投資信託を運用するファンドマネジャーから聞いた話によると「新型コロナ禍を機に、全ての経営者が自社のDXについて語るようになった」そうだ。いっとき企業の株価が軒並み暴落したこともあり、ファンドマネジャーは投資先の企業の経営者とWeb会議システムを使ってミーティングを重ねているとのことで、その際に経営者は皆、DXの取り組みを熱く語るそうだ。

 つまり新型コロナ禍により、それまでDXを他人事、あるいは現場丸投げでよしとしていた経営者を含め、日本企業のほぼ全ての経営者がDXを我が事として話すようになったのだ。新型コロナ禍の「黒船効果」恐るべしといったところだが、問題は「DXを我が事として話すようになった」経営者が本当にDXを我が事として「考えている」かである。単に株価対策、投資家対策として「DXに熱心な経営者」を装っているのではなく、真剣に「我が社のDX」に取り組もうとしているのか、その真贋を見極めないといけない。