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 なぜ日本企業の経営者は、ビジネスの根幹を担うシステムの開発をIT部門任せ、あるいはITベンダー任せにするのか。いわゆる丸投げをなぜ続けるのか。以前なら「社長はITに関心がない」あるいは「ITを分からない」がその理由だったが、空前のDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームとなった今ではさすがに「関心がない」「分からない」と恥ずかしげもなく言う経営者は表面的には消え去った。

 だけど、である。株主や投資家らに「我が社のDX」を熱く語る経営者であっても、それを実現するためのシステム開発では丸投げの場合が多い。さすがに「システム開発は専門家である君たちに任せた」と気持ち良く丸投げするケースは少なく、「私もオーナーシップを発揮して……」などと言ったりするが、何をもってオーナーシップを指すのかがよく分からない。で、オーナーシップはどこへやら、現場主導で粛々と開発が進み、愚にもつかないシステムが出来上がる。

 デジタルサービスのためのシステムなら、現場が主導してトライ・アンド・エラーで取り組み「社長はしばらく黙っていてください」でもよいだろう。だが基幹系システムの刷新の場合、それでは困る。費やすお金だけに着目しても、デジタルサービスのためのシステムの100倍、あるいは1000倍の開発費がかかる。ところが経営者の関心度で見ると正反対になる。デジタルサービスの創出はいかにも戦略的な取り組みなので、丸投げしていても経営はそれなりに関心を持つ。それに比べて基幹系システムに対する経営者の関心度は100分の1だったりする。

 これじゃいかんということで、日本企業の経営者の関心を基幹系システムに向けさせるための官民挙げての「悪巧み」が、例の「2025年の崖」だ。今さら言うまでもないが、2年前の2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート」に盛り込まれたフレーズである。その心は、多くの日本企業が抱える老朽化した基幹系システムをこのまま放置していれば、2025年あたりにシステムが立ちゆかなくなり、DXどころではなくなるというもの。役所の報告書らしからぬキャッチーな文言だったこともあり、ちょっとしたバズワードになった。

 断っておくが、悪巧みといっても、2025年では別に間違ったことは言っていない。「崖」の根拠となった数字には多少あやしいところがあったが、多くの企業が老朽システムを2025年まで放置するような事態になれば、DXは進まず、世界のデジタル革命の進展から取り残されるのは間違いないからだ。新しいデジタルサービスを立ち上げるには、顧客情報などを管理する基幹系システムとの連携は欠かせない。経営者が素早く正しく意思決定するうえでも、データを提供する基幹系システムがオンボロでは話にならないのだ。

 これを悪巧みと高く評価するのは、経営者の関心を基幹系システムに向けさせる「策」としても極めて優秀だったからだ。基幹系システムの問題をDXと明確に結び付けたことで、基幹系システムの刷新を経営課題として意識させることに成功したのだ。私も「これは良い策」だと思い、この「極言暴論」などで何度も使わせてもらった。システム刷新案件を獲得したいITベンダーもこの間、「2025年の崖の克服=DX」として大いにあおったようだ。