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 SIerをはじめとする人月商売のITベンダーの経営者たちは「えらいことになりそうだ」と不安で夜も眠れない日々を過ごしているかもしれない。あるいは逆に「どうせお茶を濁して終わりだろう」と高をくくっているかもしれない。何の話かというと、菅義偉政権が推し進める行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)の件だ。

 IT業界の関係者ならよくご存じかと思うが、金融と公共の両分野は人月商売のITベンダーにとって金城湯池だ。以前はこの両分野だけで業界全体の売り上げの4割ほどを占めるといわれていた。もちろん金融や公共の案件には多重下請けの形で多くのITベンダーが群がっているから、単純に足し合わせた全体の売り上げは水膨れする。それに最近は、他の産業分野でのIT投資が活発になっているから、比率はかなり下がっているはずだ。だがそうは言っても、今でもおいしい市場であるのは間違いない。

 その金城湯池の一角が崩れるかもしれないのだ。おっと「崩れるかもしれない」などと言ってはいけないな。「デジタル後進国ニッポン」の象徴ともいえる行政のおんぼろシステムを維持するために、過剰なほどのコスト、つまり税金を突っ込んでいるのだから、必ず壊してもらわなければいけない。その結果、人月商売のITベンダーにとって超重要市場の1つがシュリンクするわけだが、ご用聞きを専らにする彼らはだんまりを決め込んでいる。裏ではいったい何を考えているのであろうか。

 「SIガラパゴス」と言ってよいほど、日本で人月商売のIT業界が異常に発達したのは、日本の客がアホだったからである。システム開発においては、利用部門のどうでもよい要求を受け入れて要件を肥大化させたうえでITベンダーに丸投げ。保守運用においても丸投げが基本で、利用部門のわがままなどをシステムに反映するために保守費用などを膨らませる。その結果、ITベンダーは客先に技術者を送り込んで客のご用を聞いていれば、わけなくもうけられた。

 そのアホな客の筆頭格が公共と金融であるわけだ。銀行などの場合、法規制や「ご当局の指示」に対するシステム面の緊急対応があるから「アホな客」と言い切るのは気の毒な面はあるが、行政の場合はアホとしか言いようがない。役人、そして政治家のITに対するあまりの無理解が、「デジタル後進国ニッポン」にふさわしい行政のシステムを生んだ。だから、菅政権にはぜひとも行政のDXを実現してもらわなければいけない。だが、金城湯池を失うITベンダーが黙って見ているだろうか……。

 そういえば金融分野でも、人月商売の市場がシュリンクしそうだ。あれだけ金払いが良かった銀行も、金食い虫にもかかわらず収益にほとんど貢献しない勘定系システムなどをどうするかという課題に直面しているからだ。何せ、同規模の海外銀行のシステムと比べて1桁多いコストを費やしている「化け物」だ。銀行にとってコスト削減は焦眉の課題だから、化け物に群がってもうけてきたITベンダーには大打撃となる。この件も非常に趣深い話ではあるが、今回の極言暴論のテーマから外れるので、別の機会に暴論することにしよう。