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「客ごとに業務あり、客ごとにシステムあり」の真の意味

 RPAの話が長くなったが、今回はもっと大きな問題を斬りたいと思う。例えばこんな話もある。ある自動車部品メーカーのIT部長に聞いた話だが、この業界では「顧客ごとに業務あり、顧客ごとにシステムあり」なのだという。客の自動車メーカーは部品に対して細かな仕様を要求するだけでなく、納品の手順など業務のやり方も細かく指定する。そのため部品メーカーは、客ごとに最適化された業務プロセスとシステムを用意しなくてはならない。

 「自動車メーカー各社は生産を限界まで効率化しているのだから、部品メーカーにも独自の対応を求めるのは当然では?」と思う読者もいるだろう。自動車メーカーが全体最適の観点からサプライチェーン全体をマネジメントしているのなら、確かにその通りかもしれない。だが実態は少し違う。

 実は「客の自動車メーカー」と書いたが、この表現は正確性を欠く。客とは自動車メーカーの単位ではなく、自動車メーカーの「個々の工場」を指すのだ。自動車部品メーカーのIT部長からこの話を聞いたとき、私は「客=自動車メーカー」と思い込んでいて「ケイレツ外の自動車メーカーとの取引は大変ですね」などと言ったら、IT部長に笑われてしまった。自動車部品メーカーは同じ自動車メーカーと言っても、その工場ごとに専用の業務プロセスとシステムを用意しなければならないわけだ。

 さらに別の話を書こう。少し前だが、ある卸のIT部門を取材して驚いた。そのIT部門には現役のコボラーが何人もいて、しかも毎日のようにCOBOLプログラムを書いているという。まだCOBOLを使っている件については今回の記事のテーマではないので横に置いておくとして、問題はなぜプログラムを書き続けているかだ。

 要は、個々の客や取引先の要求通りに業務を遂行するためだ。冒頭で書いたように、卸の業務は「神様次第」。新たな客を獲得するたびに、納品のタイミングや各種伝票の書式といった客の要求に合わせて業務システムを拡張しなければならない。だからIT部門は大忙しで、多数のコボラーがプログラムを書き続けているわけだ。

 前々回の極言暴論でも書いたが、人事給与などの業務を請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)会社も同じような状況だ。請け負った業務は客独自のやり方をそのまま踏襲しないといけないし、客の業務システムもそのまま付いてくる。人事給与の業務委託なら客独自の人事給与システムがやって来る。その結果、BPO会社は業務の標準化やシステムの集約化による効率化を追求できずにいる。

 結局のところ日本企業、特に大企業は、場合によっては部門ごとに異なる独自の業務のやり方を取引先に押し付ける。彼らを客とする企業は、客ごとに業務プロセスやシステムを用意し、そのための人員を確保しなければならない。様々な調査が日本企業の生産性の低さは世界でも折り紙つきと証明し、加えて少子高齢化で人手不足も深刻化している。ここに至ってもこのざまなので、我々日本人はいったい何をしているのだろうと思ってしまう。