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「何を今さら」を今変えなくてどうする

 ここまで読んで「大企業が独自のやり方を押し付けるから取引先の中堅中小企業は大変だという話は、ずっと言われてきたことだ。何を今さら」と鼻で笑った読者がいるだろう。確かに「何を今さら」である。しかしそれを言ったら、極言暴論で書いてきたことのほとんどが「何を今さら」だ。ユーザー企業の業務は部分最適、属人化の極致にある点や基幹系システムはぐちゃぐちゃな点も「何を今さら」、IT業界のご用聞き体質や多重下請け構造も「何を今さら」だ。

 だが、その「何を今さら」を今変えなくては、労働人口が減ってデジタル化が進むこれからの時代に日本は立ち行かなくなってしまう。そして、大切なポイントだが、「何を今さら」と言われる古くからの問題の多くは、大元で1つにつながっている。

 「日本企業の強みは現場力」との幻想からか、日本企業の経営者は自らの主導で非効率な業務を改革しようとはせず、カイゼン活動などの形で現場に丸投げし続けてきた。その結果、現場は部分最適、属人化の道をひた走り、他部門の優れたやり方を取り入れるという発想が無い。特にカイゼン活動は部門単位で競争させるから、「他部署のやり方をまねるな。創意工夫が大切だ」などと訳の分からない話となる。その結果、企業全体から見ると業務の効率が高まらない。全体最適の発想が欠落しているからだ。

 当然、基幹系などのシステムも非効率な作りとなる。各部門の要求を聞き入れて独自のシステムを作って保守を続けていくから、プログラムは年々肥大化して複雑怪奇なものとなる。付加価値のほとんど無いシステム開発や、くだらないシステム保守に大勢の技術者を張り付けなければならず、ERP(統合基幹業務システム)などを原則そのまま活用している欧米企業に比べ、極めて非効率な運営となる。今や「希少資源」と言ってよい技術者の無駄遣いも甚だしい。

 こうしたユーザー企業のありようが、世界に類を見ないIT業界の人月商売を繁栄させてきた。何せユーザー企業は無駄遣いできるほど技術者を抱えていないから、ご用聞きのSIerにシステム開発、場合によっては保守運用も丸投げする。SIerはIT業界の多重下請け構造を活用して「安い技術者」を動員し、無駄遣いを続けてきた。そして、技術者が何人いても足りないデジタルの時代にも、技術者の無駄遣いを続けようとしている。

 「極言暴論」ではこうした負の連鎖を常に意識したうえで、個々のテーマについて暴論をぶってきた。で、たどり着いた結論は月並みだが「ユーザー企業の経営者が変わらないとどうにもならない」、である。この月並みな結論だと、以前なら「そりゃ無理」となるところだが、最近は少し違う。DXの必要性を痛感し、自社のIT投資やシステムの在り方を見直そうという経営者もチラホラとだが登場している。

 しかし、である。「保守本流」の大企業の経営者が悔い改め、業務やシステムの抜本的改革に乗り出さない限り、力の弱い取引先の企業(ITベンダーも含む)は客の大企業の独自のやり方に付き合い続けなければならない。実際に「業務のやり方を変えよう」「DXを推進するぞ」と宣言した経営者が、「そのためには顧客を説得する必要があります」と部下に言われた途端に腰砕けになったという話も聞く。