
いやぁ、こんなこともあるんだな。何の話かと言うと、例の「泥酔USB紛失事件」に関して、この「極言暴論」の記事で兵庫県尼崎市の調査報告書などを痛烈に批判した途端、というか記事を公開した当日(2022年12月12日)に、事件を引き起こしたBIPROGY(旧日本ユニシス)側から調査報告書が出たことだ。そのおかげで極めて異例だが、今回の極言暴論で「調査報告書に見る泥酔USB紛失事件」の第2弾を書かなければならなくなった。何せ、書かない選択肢はないからな。
「BIPROGYの報告書が公開される日を知っていて、前回の記事はわざとぶつけたんじゃないのか」という疑惑が一部にあるようなのであらかじめ言っておくが、それはない。公開の日をつかんでいたと言えれば記者としてかっこいいのだが、残念ながら全く知らなかった。前回の記事の執筆を1週間遅らせたのは、その記事中に記した通り、後輩記者の検証記事を先に出すためだ。もしBIPROGYの報告書が数日早く公開されていたら、私は泣きながら前回の記事を全面的に書き直さなければいけないところだった。
関連記事 尼崎市「泥酔USB紛失事件」のてんまつ、こんなひどい報告書を読んだのは初めてだそんな訳なので冒頭で書いた通り、極言暴論としては極めて異例なのだが、2回にわたりこの泥酔USB紛失事件を取り上げることにする。ちなみに前回の記事では、尼崎市側の報告書を基に、尼崎市によるBIPROGYへの完全丸投げの問題をきつめに断罪した。併せて、第三者から見ても「全市民の個人情報を扱っているのに、よくまあ平気だな」と思えるほどマネジメントレスなのに、その根本原因を全く究明していない報告書についても「ひどい報告書だ」と斬り捨てた。
では、BIPROGY側の報告書はどうか。こちらの報告書は、最近頻発する企業の不祥事や大規模システム障害などの調査ですっかりおなじみとなった第三者委員会の手によるものだ。BIPROGYが設置した第三者委員会も、同社と利害関係を有しない外部の専門家である委員3人で構成しており、そのうちの2人はいわゆるヤメ検(元検事の弁護士)だ。さすがに尼崎市のひどい報告書と異なり、現場の技術者の「やりたい放題」を許した原因について組織的な問題に踏み込んで究明しようとしている。
ところが、である。この報告書は冒頭でこんな宣言をしてしまっているのだ。「本調査は、あくまでも本件USBメモリー紛失事故に関するBIPROGYの実態等の調査を目的とするものであることに加え、尼崎市においても調査委員会による調査が実施されていること等も踏まえ、尼崎市が保有する資料の検証や尼崎市の関係者からのヒアリング等は実施せず、また、尼崎市が設置した調査委員会との情報共有を差し控えることとした」。
まさに「えっ!」である。BIPROGY側の委員会が「お客様」である尼崎市の関係者らのヒアリングをするのが難しいことは理解するが、こんなにあっさりと「役割分担」してしまうと、事件の真の原因を究明し尽くすことなど不可能だぞ。BIPROGYなどの技術者は尼崎市に常駐しているのだから、真相究明にはBIPROGYと尼崎市との「関係性」にまで踏み込んで調査することが不可欠だ。BIPROGYが要請したのか委員会が自主的に判断したのかは分からないが、それじゃ駄目でしょ。