PR
全5081文字

 世の中には方便として使う言葉がある。特にIT分野では、ITをよく分からない人たち、中でもIT嫌いの経営者を説得するために、IT部門や出入りのITベンダーらは様々な言葉を駆使する。何の話なのか全くピンと来ない読者のために言えば、例の「攻めのIT、守りのIT」がその代表例だ。

 この「攻めのIT、守りのIT」がなぜ方便なのかについては、私のもう1つのコラム「極言正論」で以前述べたことがある。簡単に言うとこうだ。あるCIO(最高情報責任者)が言っていたが、経営者は「戦略的な取り組みにしか関心を示さない生き物」なのだそうだ。そこでIT部門はIT投資を決断してもらうために「攻めのIT、守りのIT」という方便を駆使する。経営者に攻め、つまり戦略的な投資だと納得させれば、必要な予算を確保できるという算段だ。

 だが、この方便には落とし穴がある。今回の「極言暴論」のテーマにも関わるのだが、方便として使ったはずの言葉がすっかり市民権を得て、当初の意図と違ったふうに使われてしまうのだ。「攻めのIT、守りのIT」はまさにその典型で、デジタルブームに乗せられて愚にもつかないPoC(概念実証)に取り組むことが攻めのITだと思う経営者が続出した。哀れにもIT部門が求めてやまない基幹系システム刷新は、経営者にとってどうでもよい「守りのIT」に追いやられてしまった。

 そんなわけなので、方便としての言葉は気軽にホイホイと使うものではない。そんなことをしていると、必ず後で困った事態に陥る。ここで白状すると、実は私も極言暴論などの記事を執筆する際に、気軽にホイホイと使っている言葉がある。それは「老朽化したシステム」である。

 お分かりかと思うが「老朽化」は全くの方便だ。システムの構成要素のうちハードウエアは本当に老朽化するが、ソフトウエアは老朽化、つまり老い朽ちたりはしないからだ。長年の改修によりコードが複雑化した状態を老朽化と呼ぶのは、冷静に考えるとさすがに無理がある。だがITの世界では完全に市民権を得ている。いろいろな意味でとてつもなく便利な言葉だからだ。

 私のような記者にとっても極めて便利だ。本題に行く前に、ざんげの意味を込めて便利な理由を書いておく。要は「老朽化システム」と書くだけで多くの説明を省けてしまう。「長年の改修でコードがスパゲティ化し、データの整合性も怪しくなっている。その結果、システムのブラックボックス化が進み……」などとくどくど書かなくても、「老朽化システム」と書けばIT関係者なら誰もが上記の意味をくんでくれる。というわけで……すまん、これかも使い続けるかもしれない。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

日経クロステック登録会員になると…

新着が分かるメールマガジンが届く
キーワード登録、連載フォローが便利

さらに、有料会員に申し込むとすべての記事が読み放題に!
有料会員と登録会員の違い