AGC旭硝子はイタリア・ミラノで4月17日から22日まで開催される世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」に、「音を生むガラス」を使った「Soundscape(サウンドスケープ)」と題する作品を出展する。今年のテーマは「音(聴覚)」。同社による出展は4回目だ。
これまで同社は、デザインの視点を入れたときにガラスの素材がどうあるべきかという観点から開発を進め、視覚や触覚など人間の五感に訴えかけるインスタレーションを展示してきた。「音を生むガラス」は、通常のスピーカーでは紙や樹脂でできている振動板にガラスを使い、音質とデザイン性の両立を目指した。
AGC旭硝子が3月7日に行った発表会では、2台の「音の出るガラス」から実際に音楽を流し、高質なスピーカーに近い迫力のある音が部屋に響いた。音楽が流れるガラスに手を触れると、ガラスが細かく振動していることが分かった。
開発の理由について同社・技術本部商品開発研究所の秋山順マネージャーは、「振動板を透明で美しいガラスでつくることができれば、将来的に商品として可能性が広がるのではないかと考えた。そこで、音を生むガラスの研究に着手した」と話す。
将来、音を生むガラスを窓や壁に設置すれば、面で迫力のある音を再現できる。ディスプレーやカバーガラスとして使えば、映画館のスクリーンのような音を体感できるようになると、秋山マネージャーは期待する。
課題は、原音の再現にあった。一般的に、スピーカーは原音を忠実に再現できるほど良いという考えが根強い。そこで、「原音を忠実に再現できるガラススピーカーの開発を目指した」と、秋山マネージャーは言う。
原音を忠実に再現するには、2つのポイントがあった。ガラス特有の共振を含まないこと、そして低音から高音まで幅広い音を出せることが必要となる。
「音を生むガラス」は2枚のガラスの中間層に、音質を確保しつつも厚さを非常に薄くできる素材を用いた。それによってガラスの共振を抑えられ、余計なノイズが発生しないようにした。
「2枚のガラスの間に特殊な中間層を挟む構造を用いることで、従来のスピーカーで使われる紙や樹脂などの振動板の性能に近づけた。音域に関しては、むしろ従来品よりもガラスの方が優れた性質を持つことが分かった」と秋山氏は話す。