「坂の街」として有名な広島県尾道市。公募で設計者を選定した展望台の改築計画で、契約期限内に業務が完了しなかったとして、市が1月、石上純也建築設計事務所を契約解除、前払い金の返還と違約金の支払いを求めた。双方の主張は大きく異なる。一体、何が起こったのか。市と設計者それぞれの言い分を前・後編に分けて伝える。
「私たちに全ての責任があるということは絶対にない」。2月25日、日経アーキテクチュアの取材に応じた石上純也氏はそう語った――。
広島県尾道市は1月24日、千光寺公園頂上エリアリニューアル基本・実施設計業務委託契約について、委託先である石上純也建築設計事務所(東京都港区)との契約を解除したと発表した。
市は業務委託料約3212万円のうち約1400万円を既に支払っていた。しかし2016年度分は業務内容を考慮して支払うものの、17年度分の前払い金約720万円の返還と、違約金321万円の支払いを石上事務所に請求している。
3月時点で、石上事務所はそれらの支払いを拒み、弁護士を通じて平谷祐宏・尾道市長や市の担当者に話し合いを求めている。
既存展望台は市のシンボル
既存の展望台がある千光寺公園は、尾道市にとって重要な観光名所だ。展望台が立つ山頂にはロープウエーがかかり、年間約80万人が公園を訪れる。展望台は築60年で、展望スペースに上るには階段しかなく、老朽化対策とバリアフリー化が求められていた。
市は16年11月、展望台とその周辺をリニューアルするために、公募型プロポーザルを実施することを発表した。設計内容は敷地面積約2000m2の公園に、延べ面積約450m2の展望台を新築し、完成後に既存展望台を撤去するものだ。
プロポーザルに参加を表明したのは11者だった。市は書類で5者に絞り、同年12月11日の最終選考(審査委員長は川田一義・尾道市立大学副学長)で石上事務所を設計者に選定。石上事務所は、雲のようなイメージで敷地全体に広がる屋根スラブを、細い柱で支える展望空間を提案していた。