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 世界で約4万3000人もの従業員を抱えていた英国の巨大建設会社カリリオン(Carillion)が、2018年1月に突然、経営破綻した。約3万社に及ぶ下請けの建設会社などは、17年末のクリスマス前から工事金が支払われていないという。英国の建設業界は日本と同様に少数の大手建設会社が売り上げの多くを占めるピラミッド型構造となっており、1社でも破綻すればその影響は広範囲に波及する。

 日本でも20年の東京五輪以降、急激に建設需要が悪化し、一方で人件費が高騰し続ければ、たちまち経営悪化に陥る建設会社が出かねない。なぜカリリオンは破綻したのか?日本の建設業界にとっての教訓は?英国で建設コンサルタントを務めた経験もあるサトウファシリティーズコンサルタンツ(東京都港区)の佐藤隆良代表が、英国大手建設コンサルタント(RLB社)にヒアリングしたほか、現地報道などを基に破綻の原因を考察した。(ここまで日経 xTECH)

英国で2位の規模を誇る建設会社カリリオン。世界に約4万3000人の従業員を抱えていたが、2018年1月に経営破綻した(写真:ロイター/アフロ)
英国で2位の規模を誇る建設会社カリリオン。世界に約4万3000人の従業員を抱えていたが、2018年1月に経営破綻した(写真:ロイター/アフロ)
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 18年2月6日、英国の国会で聴聞会が開かれた。現地報道によれば、聴聞会でカリリオンの暫定CEOであるキース・コクレーン氏は、同社の経営破綻について次のような理由を陳述したという。

 病院における2件のPFI事業で、契約上の失敗からコストが超過した。11年に省エネルギー会社を買収したが、その負債額が異常に膨らんだ。さらに、カタール・ドーハにおける大型再開発案件で契約内容を巡るトラブルなどが発生。工事代金、約2億ポンド(約300億円)の回収が滞った。同時期に、英国のEU離脱や17年の総選挙などが起こり、英国の社会・経済環境の変化が追い打ちをかけたとした。

 つまり、厳しい受注競争のなかで勝ち抜くために、(1)安値受注による業績赤字、(2)新規関連事業拡大のための企業買収の損失、(3)海外事業トラブルによる工事代金回収の失敗、などが破綻の引き金になったといえる。

 そもそもカリリオンとはどのような建設会社なのかを整理しよう。同社は英国内に約2万人、カナダや南アイルランドなど英国外で約2万3000人の従業員を抱える、同国2位の規模を誇る建設会社だった。

 事業では大きく2つの面を持っていた。1つは、建築・土木工事で病院や道路、高速鉄道などの公共施設やインフラなどの大型建設工事を手掛ける建設会社の側面だ。代表的な建築に、英ロンドンの「テート・モダン」(ヘルツォーク&ド・ムーロン設計、00年開業)やオマーン・マスカットの「スルタン・カブース・グランド・モスク」(モハメッド・サレハ・マキヤ設計、01年完成)などがある。

英国・ロンドンにある「テート・モダン」。テムズ川沿いにかつてあった「バンクサイド発電所」を改修した英国立の近現代美術館(写真:アフロ)
英国・ロンドンにある「テート・モダン」。テムズ川沿いにかつてあった「バンクサイド発電所」を改修した英国立の近現代美術館(写真:アフロ)
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 もう1つの事業は、建物のメンテナンスや警備、学校給食の提供や刑務所内の保守管理などの公共運用サービスを受注するファシリテイーマネジメント(FM)会社の側面だ。英国における公共サービスのうち、FM事業で同社が受注した案件は約450件に上る。

 カリリオンの破綻が、1つの民間企業の問題にとどまらず英国全体の社会問題へと発展したのは、約2万人に上る従業員の雇用問題だけでなく、同社が公共サービスを数多く受注していたことも大きい。カリリオンが受注していた病院や刑務所などで、運営に支障が生じるのではないかと地域社会に不安が広がったからだ。